安達弾~打率2割の1番バッター~ 第19章 ドラフト会議2016②

 2016年10月20日。今年のドラフト会議が始まった。

 ドラフト会議と言えばやはり、1位指名に誰が選ばれるのか、そしてどれだけ複数の球団が競合するのかが注目される。つい2か月前までなら、その最有力候補は千石聖人の一択だった。歴代最多の8球団を上回るのではないかという声まで上がっていたほどだが、夏の甲子園決勝で事態は一変する。

 夏の甲子園決勝で右肘の違和感により降板した千石。病院での診察結果は、肘の靭帯断裂。千石はトミー・ジョン手術を受けることを決断。どんなに早くても、千石が1軍のマウンドに立てるのは再来年以降となる。

『トミー・ジョン手術の成功率は80%以上と高いが、それでも千石が以前と同レベルの投球ができるようになるのかと問われれば、疑問が残る。わざわざ大きなリスクを冒してまで千石を1位指名するくらいなら、同じ高校の160キロ右腕百瀬を指名した方が無難だろう』

 そんな野球評論家の意見がある一方で、逆に競合する球団が減ってくれて助かると言わんばかりに千石を指名してくる球団がいくつか現れるのではないかという意見もあり、果たして1番多くの球団が競合する選手は誰なのか、その予想は困難を極めていた。

(どうか他の球団が、黒山君以外を指名してくれますように)

 テレビの前でドラフト会議の様子を見ていた千葉GuMマリーンズスカウトの野宮は、そう祈りながら画面を注視していた。

「第1巡選択希望選手 オリックスレッドウェーブ 寺原浩二 投手 若田大学」

(去年最下位のオリックスは、即戦力になりそうな大卒投手を手堅く選んできたか)

「第1巡選択希望選手 中日ワイバーンズ 岡田昇 投手 四菱自動車」

(中日もオリックス同様、即戦力候補の社会人投手を選んできたか。中日は今年、先発ローテがほとんど壊滅状態だったからな)

「第1巡選択希望選手 東北喜点イーグルス 宮島進 野手 慶堂大学」

(今年貧打に泣いた喜点は、大型スラッガーの宮島か)

「第1巡選択希望選手 広島オイスターズ 百瀬剛三 投手 大阪西蔭高校」

(広島は百瀬できたか。よしよし、黒山君はまだ出てないぞ)

「第1巡選択希望選手 埼玉東武ライオンズ 百瀬剛三 投手 大阪西蔭高校」

(東武も百瀬か。この感じだと、千石を諦めた球団が代わりに百瀬を選択する流れか)

「第1巡選択希望選手 横浜DEFスターズ 百瀬剛三 投手 大阪西蔭高校」

(横浜まで百瀬か。これは最終的に5、6球団は競合するかもな)

「第1巡選択希望選手 千葉GuMマリーンズ 黒山聡太 投手 船町北高校」

(ここでうちが最初の黒山君指名だ。どうかこのまま、黒山君が他の球団に選ばれませんように)