安達弾~打率2割の1番バッター~ 第18章 1日だけの夏休み⑥

 2016年。8月31日。この日、船町北高校野球部は休みだったが、鈴井監督は監督室で1人、9月からの練習メニューなどを考えていた。そこに突然、ノックの音が。

「コンコン」

「どうぞ」

「失礼します」

 中に入ってきたのは、陸上部顧問の桐生先生だった。

「頼まれていた資料をまとめたので持ってきました」

「わざわざありがとうございます。今日も部活ですか?」

「いえ、部活は休みですけど2学期からの授業の準備がありまして」

「そうでしたか。桐生先生は学校の授業もしながら部活もやられていて大変ですよね。頭が下がります」

「いえいえ。鈴井監督の方が大変でしょう。私は部活で最悪結果が残せなくても、教師の仕事があるので首にはならないと思いますが、鈴井監督の場合は結果が出ないといつ首を切られるかわからないシビアな世界で戦っておられて、本当に尊敬します」

「いえいえ。それより、うちの部員の走りの方はどうですか?」

「みんな真面目に練習に取り組んでいますが、特に星君はずば抜けて速いですね。うちのエースにもいい刺激になってますよ」

「確か、アンドールズ飛鳥君ですよね。今年全国まで行った」

「今はまだ飛鳥の方がタイムは上ですが、星君の成長次第では今後どうなるかわかりませんよ」

「ぜひこれからも、ご指導のほどよろしくお願いします」

「それでは仕事も残ってますので、私はこれで失礼します」

「ありがとうございました」

(さて、早速タイムをチェックするか)

 鈴井監督は、桐生先生に頼んでいた100メートル、50メートル、そして25メートルを部員達がそれぞれ走ったタイムをまとめた資料をチェックしていた。

  
  100メートル走     50メートル走     25メートル走

 1位 星  11.12  1位 星  5.98  1位 星  3.21 

 2位 川合 11.46  2位 川合 6.09  2位 安達 3.29

 3位 西郷 11.84  3位 西郷 6.16  3位 川合 3.30

 4位 山田 12.12  4位 山田 6.21  4位 西郷 3.36

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 10位 安達 12.63 7位 安達 6.37  21位 伊藤 3.78

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 21位 伊藤 13.97 21位 伊藤 6.95

 
(なるほど。やはりそうだったか。ベースランニングでのタイムだけを見て、安達は足が遅いと思い込んでいたが、盗塁をしている時の安達は足が速く見えるからおかしいと思っていたんだ。安達はベースランニングが苦手なだけで、100メートル走では10位、50メートル走では7位、そして盗塁の時とほぼ同じ25メートル走では星に次いで2位と、単純な直線コースで尚且つ短い距離になればなるほど速くなる。これはまるで、盗塁をするために生まれてきたような足じゃないか。これだけの足があるなら、将来的にはセンターを守らせてみるのもおもしろいかもな)