安達弾~打率2割の1番バッター~ 第18章 1日だけの夏休み②

「あの、さっきはすみませんでした」

「いいのよ。気にしないで」

 白いTシャツとデニムのショートパンツに着替えたその若い女性は、台所で料理の準備を始めた。

「チャーハン作るけど、弾君も食べる?」

「あのーその前に、あなたは誰ですか?」

「えっ? もしかして、お父さんから何も聞いてないの?」

「はい」

「初めまして。これから弾君の新しいお母さんになります、加藤綾乃って言います」

 驚きのあまり、言葉を失う安達。

「うふふ、本気にした? 冗談よ冗談。先月からここでアルバイトさせてもらってる、ただの大学生よ。今は休憩時間なの」

「もう、やめてくださいよ」

「で、チャーハン食べる?」

「はい、いただきます」

「じゃあできるまでに10分くらいかかるから、その間にシャワーでも入ってきたら?」

「あっ、はい。そうします」

 綾乃は弾が脱衣所に向かったのを確認したあと、小さくガッツポーズをした。

(やったわ。ついに弾君に会えた)

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 加藤綾乃には、子供の頃からの夢があった。将来野球選手と結婚して、玉の輿に乗るという壮大な夢が。

 綾乃は夢を叶えるため、まずは女子アナになることを目指した。野球選手の妻と言えば女子アナ、そう相場が決まっている。そして、女子アナを目指すなら私立の難関大学のミスコンでグランプリを獲得するのが必須条件だ。綾乃は高校生活の3年間、部活も恋もそっちのけで、受験勉強に没頭した。

 そして、合格発表当日。

「13976、13976、13976……」

 綾乃の受験番号13976は、どこにもなかった。

 こうして綾乃は、仕方なく滑り止めで受けていた地元千葉県の大学に通うこととなった。

(この学歴じゃあ、キー局の女子アナは難しそうね。なれたとしても、せいぜい地方局か。はぁ、これじゃあ野球選手と結婚できたとしても、大した選手は捕まえられそうにないわね)

 志望していた大学に行けず、将来の希望も持てず、もやもやとした気持ちを抱えながら大学生活を送っていた綾乃。そんな時、たまたまネットで目にしたのが、バッティングセンターでいい当たりを連発する中学生の動画だった。

(この子、すごいじゃないの。まさにダイヤの原石ね。きっと将来、有名な野球選手になるんだろうな。あっ……)

 この時、綾乃にある名案が浮かんだ。