安達弾~打率2割の1番バッター~ 第17章 夏の甲子園決勝 龍谷千葉VS大阪西蔭⑨

2021年4月22日

 結果から先に言うと、清村弟の第1打席は三振に終わった。それはなぜか? 

 怪我のブランクがあったから? 

 狙い球が外れたから?

 これらの理由はどれも当てはまらない。ただ単純に、清村弟と千石との間に実力差があったからだ。

 初球の高速縦スラ、2球目の高速横スラ、そして3球目の自己最速タイとなる162キロのストレート。千石が清村弟に投じたこの3球を打ち返せるだけの実力が、清村弟にはなかった。ただそれだけのこと。

(なんてピッチャーだ。高校生ナンバー1ピッチャーの称号は伊達じゃない。千石聖人……こいつは船町北の黒山以上の強敵かもしれないな)

 龍谷千葉VS大阪西蔭の試合は、3回を終えていた。スコアは未だ0対0。しかし、同じ無失点でもその内容はまるで違っていた。

 ヒットどころか四死球やエラーすら1つも許さない完璧な投球を続ける大阪西蔭の先発千石に対して、龍谷千葉の先発村沢は毎回のようにヒットを許しながらも何とか首の皮1枚繋がっているという状況だった。

 村沢の調子は決して悪くはなかった。悪いどころか、村沢が自身の実力を100%引き出して船町北を完封した1か月前の試合以上に良い球を投げ込んでいた。パーセンテージで表すと、実力の120%といったところか。しかしそれでも毎回のようにヒットを打たれていたのは、ただ単に120%引き出した村沢の実力よりも、大阪西蔭打線の実力が上回っていただけのことだった。

(このままでは村沢が打ち込まれるのは時間の問題だ。こっちも何とかして千石から点を奪わないとやばいぞ)

 4回の表。先頭バッターの清村兄は、そんな危機感を持ちながら打席に上がった。そんな清村兄に投げられた初球は、真ん中高めの甘いコースへのスローボールだった。

(えっ!)

 打ち頃の絶好球だったものの、余りに想定外の球だったため清村兄は手が出せなかった。

「ストライク!」

(くそっ、舐めやがって)

 一見するとふざけて投げたようにも思えるこのスローボールだが、実はこの1球、千石が意図して投げたものではなかった。

(この感じ……1年前と同じや)

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 龍谷千葉 000
 大阪西蔭 000