安達弾~打率2割の1番バッター~ 第17章 夏の甲子園決勝 龍谷千葉VS大阪西蔭⑧
決勝戦が始まる少し前、大阪西蔭ベンチでは先発が発表された村沢についての対策を改めて確認していた。
「村沢君が投げている球はいわゆる癖球です。非常に打ちづらいとは思いますが、君達のバッティング技術があれば攻略はそう難しくはないでしょう。球速も130キロ代そこそこですしね。事実、甲子園では結構打たれてます。しっかりと引き付けて、球の動きをよく見て打つ。この基本を徹底すれば、必ず攻略できますよ」
「はい!」
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「カキーン!!」
しっかりと引き付けて、村沢の横に少しだけ変化するスライダー気味の癖球を綺麗に流し打ちした三浦。しかし、その打球方向はショートを守る清村兄のギリギリ守備範囲内だった。逆シングルで打球をキャッチした清村兄は、素早くファーストへ送球する。
「アウト!」
(くそっ! 抜けへんかったか。しかし、思った以上にあいつの球速かったな。意外と打ちづらいで)
この後村沢は、2番バッター田所を落ちる癖球を打たせてピッチャーゴロ。3番バッター山本にはストレートを内野安打にされたものの、4番バッター千石を外野フライに抑えて1回の裏の守備を終えた。その間、村沢が投げた球数は僅か7球。それは奇しくも、千石が1回の表の守備で投げた球数と同じだった。
(せっかくこっちに傾いていた流れを止められてしもうたか。まあええわ。ワイのピッチングでもう一度、流れを引き戻したるわ)
2回の表、そう気合を入れ直してマウンドに上がる千石だったが、打席に上がった4番バッターの清村弟は、その千石以上に気合が入っていた。
(待ちに待った夏の甲子園決勝の舞台。俺はこの日を1か月間、ずっと待ち望んできた)
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2016年。7月21日。夏の甲子園千葉大会の決勝で左手の甲にデッドボールを受けた清村弟は、試合後すぐに病院へと向かった。
「打撲ですね。骨に異常はありませんでした」
「良かったー。じゃあすぐに野球はできますよね?」
「ダメです。打撲を甘く見ちゃあいけませんよ。結構重度の打撲ですので、1か月以上は安静にしないと」
それから2週間。清村弟は左手に負担のかかる練習を一切禁止し、治療に専念した。そして、再び同じ病院を訪れた。
「順調に回復していますね。明日からはバッティング練習も再開して大丈夫ですよ」
「本当ですか?」
「ただし、無理はダメですよ。あと、捕球練習は絶対禁止です。ピッチャーの速い球を捕球なんて、一番左手に負担がかかりますからね」
それからさらに1週間後。
「完治と言っていいでしょう」
「よっしゃー」
「予定よりも大分早く治りました。言いつけを守って、よく我慢しましたね」
それから1週間、清村弟はブランクを取り戻すべく猛練習をした。夏の甲子園決勝の舞台に、万全な状態で戻るために。
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