安達弾~打率2割の1番バッター~ 第17章 夏の甲子園決勝 龍谷千葉VS大阪西蔭⑦

 1回の表。160キロ代のストレートやキレのある3種類のスライダーを駆使して僅か7球で終わらせた大阪西蔭千石の圧巻のピッチングに、観客達は完全に魅了されていた。

「さすがは高校ナンバー1ピッチャー」

「お前なら170キロも夢じゃない!」

「このまま2回目の完全試合狙っちゃえー!」

 1回の裏。龍谷千葉先発の村沢が投球練習を終えると、先頭バッターの三浦が打席に入ってくる。甲子園球場全体が、大阪西蔭を応援する大音量の声援に包まれる。

「西蔭! 西蔭! レッツゴー! レッツゴー!」

「カット―バセー! ミ! ウ! ラ!」

「いけいけ西蔭! 打て打て西蔭!」

 夏の甲子園決勝戦。相手投手は新聞の1面を飾る高校生ナンバー1ピッチャー。そして初回の完璧な投球。観客は完全に相手寄り。まさにアウェイなこの状況下で、先発のマウンドを託された村沢にかかる緊張やプレッシャーは、常人では耐えきれないほど大きく膨れ上がっていた。

(やべーな。見ているこっちまで緊張してきた)

(俺が先発じゃなくて良かったー)

 龍谷千葉ベンチに座る投手の佐藤や山田がそんなことを考える中、キャプテンで控え捕手の馬場だけは、この状況を前向きに捉えていた。

(船町北との決勝戦で村沢の球を受けた俺にはわかる。あいつは緊張やプレッシャーがかかる逆境に追い込まれれば追い込まれるほど、力を発揮するタイプだ。きっと千石は、初回から一気に飛ばして観客を味方につけることで試合を優位に進めようと考えたのだろう。だが、うちの村沢相手にその作戦は、完全に悪手だぞ)

 先頭バッターの三浦に対する初球。清村弟は村沢が1番得意とするスライダー気味の癖球のサインを出すと、村沢はすぐに頷いた。

(甲子園決勝戦。相手投手は高校生ナンバー1ピッチャー千石。対するこっちのピッチャーは、無名の俺。きっと観客達はみんな、俺が無様に打ち込まれて、千石有する大阪西蔭高校が優勝する姿を思い浮かべているんだろうな。そんなこいつらの予想を裏切れたら、さぞかし痛快だろうな。くっくっく……)

 村沢は二ヤリと笑いながら、大きく振りかぶって渾身の癖球を投じた。

「カキーン!!」