安達弾~打率2割の1番バッター~ 第17章 夏の甲子園決勝 龍谷千葉VS大阪西蔭⑤

 龍谷千葉高校スターティングメンバー

 1 清村兄(遊)
 2 小林 (右)
 3 鈴木 (左)
 4 清村弟(捕)
 5 田中 (中)
 6 西村 (二)
 7 斎藤 (一)
 8 片岡 (三)
 9 村沢 (投)

 大阪西蔭高校スターティングメンバー

 1 三浦(中)               
 2 田所(二)    
 3 山本(三)
 4 千石(投)
 5 星田(右) 
 6 佐々木(左) 
 7 遠藤(一)
 8 川本(捕)
 9 水島(遊)

 1回の表。龍谷千葉の攻撃。マウンドで投球練習をする千石をベンチで見ていた百瀬は、あの時の千石の言葉が引っ掛かっていた。

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「俺は昨日投げたばっかやし、どうせ今日は出番あらへんやろ」

「それはわからへんで……」

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(あいつが順調に抑えれば、100球で7、8回までは1人で投げ切れるはず。その後は今まで通り、万場兄弟がリリーフ登板して試合終了。俺が出る幕はどこにもあらへん。なのにあんなことを言うっちゅうことは、もっと序盤で交代するかも知れへんとあいつは考えとる。千石らしくない弱気な発言……不安やわー)

「ストライク!」

「うおー!!!!」

(いかんいかん。もう試合始まっとる。それにしても、なんで1球投げただけやのにこんな凄い歓声が上がっとるんや。打たれた訳ではなさそうやけど。あっ……)

 電光掲示板に目をやった百瀬は、そこに表示されていた球速を見て歓声の理由を悟った。

『161』

「ストライク!」

『160』

「ボール!」

『161』

(3年前に対戦した時とは比べ物にならない。千石聖人……なんてピッチャーだ)

 先頭バッターの清村兄に対する千石の4球目。キャッチャーの川本は、高速縦スラ・高速横スラ・変化の大きい横スラの3種類のサインを出したが、千石はいずれも首を振る。

(全く、我儘なエース様やな)

 川本は渋々、ストレートのサインを出す。大きく振りかぶる千石。放たれたストレートは、川本が外角低めに構えるミットに吸い込まれていった。スイングすらできないまま、ただ茫然とその場に立ち尽くす清村兄。

「ストライク! バッターアウト!」

『162』

 清村兄へ投げた4球全て160キロ越えのストレートという異次元の投球で、球場の空気を完全に支配した千石。

(千石の野郎……絶好調やないかい)