安達弾~打率2割の1番バッター~ 第17章 夏の甲子園決勝 龍谷千葉VS大阪西蔭④

『160キロ 大阪西蔭百瀬完投勝利』

『千石だけじゃない 百瀬剛三160キロ連発で完投』

『160キロ3球 百瀬完投で大阪西蔭決勝進出』

『大阪西蔭VS龍谷千葉 甲子園決勝組み合わせ決定』

『160キロ連発 百瀬熱投149球で決勝進出』

『まさかの逆転負け 阪神3位転落』

「おい百瀬、早く行くで!」

 宿泊先のホテルのロビーに並べられたスポーツ新聞の1面を見ながらニヤニヤしていた百瀬に、千石が声をかける。

「なあ、見てくれやこの新聞の1面。これで俺も、ドラフト1位指名とか狙えるやろか?」

「そんな先の話より、今は今日の決勝戦に集中しろや」

「俺は昨日投げたばっかやし、どうせ今日は出番あらへんやろ」

 そんな無責任な発言をする百瀬に対して、千石がボソッと独り言のように呟きながらその場をあとにした。

「それはわからへんで……」

 その独り言を、百瀬は聞き逃さなかった。

(もしかしてあいつ、調子でも悪いのか?)

 2016年8月21日。午後1時35分。夏の甲子園決勝戦が開幕する25分前。大阪西蔭のレギュラーメンバーがシートノックを受けている最中に、観客がざわつき始めた。

(何や何や?)

(どうしたんや?)

(俺達の華麗な守備に驚いてるんやろか?)

 大阪西蔭のレギュラーメンバーがその理由を知ったのは、シートノックが終わってから対戦相手の龍谷千葉のスターティングメンバーを確認した時だった。

 龍谷千葉高校スターティングメンバー

 1 清村兄(遊)
 2 小林 (右)
 3 鈴木 (左)
 4 清村弟(捕)
 5 田中 (中)
 6 西村 (二)
 7 斎藤 (一)
 8 片岡 (三)
 9 村沢 (投)

「清村弟が」

「スタメンにおる」

「怪我で出られへんやなかったんかい」

「向こうのベンチも観客も、大分驚いているみたいだな。総次郎、よくぞ戻ってきてくれた」

「いえいえ。こちらこそ、よくぞ決勝戦まで勝ち上がってくれました。おかげで何とか間に合いました」

「決勝にきて、ようやくうちのベストメンバーが揃った。うちは今まで、千葉の絶対王者と呼ばれてきた。だがな、お前ら千葉止まりで本当に満足か? どうせなら、日本一になって高校野球界の絶対王者になってやろうぜ」

「はい!」

「皆さん、落ち着いてください。例え龍谷千葉に正捕手が戻ってきたところで、うちのチームの方が実力は上回っていますよ。大阪の絶対王者から高校野球の絶対王者へ。私達が掲げてきた甲子園優勝の目標が、今目の前にあります。あなた達なら大丈夫です。絶対に勝ちましょう」

「はい!」