安達弾~打率2割の1番バッター~ 第17章 夏の甲子園決勝 龍谷千葉VS大阪西蔭③
『完全試合&162キロ 圧巻千石』
『中谷翔平越え 千石聖人162キロで完全試合達成』
『大阪西蔭 完全試合&162キロで完勝』
『ガラスのエース 完全試合で完全復活』
『162キロ出た! 千石聖人完全試合』
『逆転サヨナラ 阪神2位浮上』
大阪西蔭高校の千石聖人が完全試合で縦浜高校を下した翌日、ほぼ全てのスポーツ新聞各紙はこぞって1面にこの記事を取り上げた。
「千石、お前もすっかりスターやな。羨ましいわ」
宿泊先のホテルのロビーに並べられたスポーツ新聞の1面を見ながら、千石にそう語りかける百瀬。
「羨ましい? 色んなとこの記者から質問攻めにあって、ごっつ大変やったんやで。もう疲れたわ」
「俺もそんなセリフ言ってみたいわ」
「ほんなら百瀬、明日の試合でお前も完全試合か162キロ以上の球投げろや。そしたら記者がうじゃうじゃ寄ってくるで」
「無理を言うな。できる訳あらへんやろ」
そう笑いながら百瀬が否定したあと、千石がボソッと独り言のように呟いた。
「百瀬なら狙える思うけどな……」
その独り言を、百瀬は聞き逃さなかった。
(千石に言われると、ホンマに狙える気がしてきたわ)
そして翌日の20日、夏の甲子園準決勝が行われた。
123456789 計
大阪西蔭 2
南陸第一 1
(くそーやっぱ無理やったわ)
初回。百瀬はいきなり3番バッターにソロホームランを打たれ、完全試合の夢は断たれた。
(でも、まだ162キロが残っている)
123456789 計
大阪西蔭 200101103 9
南陵第一 100000101 3
球速を意識するあまりコントロールが乱れ、四球を6つも出す乱調気味だった百瀬。それでも、準決勝まで勝ち残っていた熊本の強豪校南陵第一を3失点に抑えての完投勝利。最高球速は、160キロ。それも1度だけではなく、3回裏、5回裏、7回裏の計3度も計測していた。
(ガーン……162キロ、出えへんかった)
試合に勝ったにも関わらず、そう落ち込みながらグラウンドを去ろうとしていた百瀬。その時、百瀬の目の前に大勢の記者達が押し寄せてきた。
「百瀬君、取材お願いします」
「160キロ連発していましたね」
「やっぱり千石君はライバル視していますか?」
その光景を見た百瀬は、一変して笑顔になると饒舌にインタビューに答え始めた。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません