安達弾~打率2割の1番バッター~ 第17章 夏の甲子園決勝 龍谷千葉VS大阪西蔭②

2021年4月5日

 チーム打率5割越えの隙のない打線と、高校ナンバー1投手との呼び声も高いガラスのエース千石聖人、切れ味抜群のカットボールを操る百瀬剛三の2枚看板を要する鉄壁の投手陣。この好守に隙の無い野球で圧倒的な強さを誇る大阪の絶対王者、大阪西蔭高校。去年の甲子園ではベスト4,そして今年の春のセンバツでは準優勝。そして、今年の大阪地方予選では全試合1失点以下という抜群の安定感で甲子園出場を決めた。

 そんな大阪の絶対王者、大阪西蔭高校が掲げる目標はただ1つ。

『甲子園優勝』

 その目標に向かって、大阪西蔭高校は盤石の試合運びで勝ち星を重ねていった。

 8日(夏の甲子園1回戦)
      123456789 計
 大阪西蔭 101102012 8
 綾星   000000010 1

 14日(夏の甲子園2回戦)
      123456789 計
 東朋   000000    0
 大阪西蔭 204112    10

 16日(夏の甲子園3回戦)
      123456789 計
 大阪西蔭 001101211 7
 盛岡小付 000000100 1

 そして、2016年8月18日準々決勝。この日先発のガラスのエース千石が、大記録を打ち立てようとしていた。

      123456789 
 大阪西蔭 301011000 
 縦浜   00000000  

 千石が8回を投げ終えた時点で、対戦相手の縦浜高校はパーフェクトに抑えられていた。あと1回投げ切れば、完全試合が達成される。しかし、すでに球数は98球。去年の夏の甲子園準々決勝で肩を痛めて降板して以来、千石は100球以内で降板するという制限を1年間守り続けていた。

「千石君、もうすぐ100球です。9回は交代しましょうか?」

「監督、この観客の歓声が聞こえへんのか? あと1回だけや。ええやろ?」

「仕方がありませんね」

 こうして9回のマウンドに上がった千石は、あっという間に2アウトを奪った。縦浜高校はラストバッターに、代打の国木田を出した。

(高校の3年間、必死でバットを振り続けてきた。そして、最後の夏になんとかベンチ入りを果たしたものの、俺の出番は1度もないまま甲子園の準々決勝まできてしまった。そんな俺に、最初で最後のチャンスが訪れた。ここから逆転は無理でも、せめてヒットを打って完全試合を崩してやる。俺の野球人生の、全てを賭けて)

「ストライク!」

「ストライク!」

 2球続けて変化球に空振りする国木田。

(なんてキレのあるスライダーだ。全く打てる気がしない。でも、俺の得意な真っすぐに狙いを絞れば……)

「ファール!」

「ファール!」

 千石のストレートを、2球続けてファールにする国木田。

(千石、こいつはストレート狙いや)

 変化球のサインを出すキャッチャー川本に対して、首を振る千石。

(ここで変化球なんてカッコ悪いやろ。最後はストレートでカッコ良く決めさせてや)

 そんな千石の思いが通じたのか、しぶしぶストレートのサインを出す川本。そして、運命の5球目。
大きく振りかぶって、千石が渾身のストレートを投げ込んだ。

「ストライク! バッターアウト!」

 この瞬間、観客は今大会最高の盛り上がりを見せた。完全試合が達成されたからというのはもちろんのこと、千石は同時にもう1つ大きな記録を打ち立てていた。

『162』

 高校野球での歴代最高球速は、2012年甲子園準決勝で記録した中谷翔平の161キロ。その記録を、千石は4年振りに塗り替えたのだった。