安達弾~打率2割の1番バッター~ 第17章 夏の甲子園決勝 龍谷千葉VS大阪西蔭⑰
6回表。この回の先頭バッターは、9番の村沢。ゆっくりとぼとぼとと打席に向かうその姿は、ついさっきノーアウト満塁のピンチをトリプルプレーで切り抜けたばかりのノリに乗っているピッチャーとは思えないほど、疲労感が漂っていた。
初球。外角高めのストレートに空振りして、その場に倒れ込む村沢。
(こいつ、もう限界やないか。こんなヘロヘロの奴に、俺達は今まで抑えられてきたのか。でもこの様子じゃあ、次の回こそは打ち崩せそうやな)
そんなことを考えながら、安易に2球続けてストレートのサインを出すキャッチャー川本。
(さっさと3球で抑えて、楽にしたろか)
そんなことを考えながら、球を投じる万場兄。
(油断したな。狙い通りだ!)
明らかにキレのない力の抜けた甘いストレートを、村沢は待ってましたとばかりにフルスイングで捉えた。
「カキーン!!!」
打球はレフトスタンドへ一直線に吸い込まれていった。
(あいつ、初球の空振りも含めて全部演技やったのか。完全に騙された。俺がもっとしっかりリードしておけば)
(あの野郎、完全に油断した。くそー俺達兄弟でこのまま最後まで無失点に抑えて大阪西蔭のニュースターとして大々的にデビューする計画がパーになったやないかい)
「兄貴、なにやってんねん」
ファーストを守っていた弟浩二が、交代のためマウンドにきた。
「悪い。だが、もうこれ以上の失点は絶対やらへん。9回まで全力で投げ抜く。お前もしっかり頼むで」
「どの口が言っとんねん。俺は最初からそのつもりや」
(5回まで無失点で投げて、おまけにホームランまで。この試合、村沢1人におんぶにだっこじゃねえか。もっとしっかりしないとな)
村沢のホームランに触発されて、気合いを入れ直しながら打席に上がる1番清村兄。
(1年の村沢があれだけ頑張ってるんだ。1年先輩の俺が、このまま終わる訳にはいかねー)
村沢のホームランに触発されて、気合を入れ直しながらネクストバターズサークルへと向かう2番小林。
(俺にとってはこれが高校最後の試合。そんな大事な試合で、村沢1人に良いとこ持ってかれっぱなしじゃあ終われねえよな)
村沢のホームランに触発されて、気合を入れ直しながらベンチでバットを握りしめる3番鈴木。
「ストライク! バッターアウト!」
「ストライク! バッターアウト!」
「ストライク! バッターアウト! チェンジ!」
そんな3人の思いは、村沢のホームランで完全に本気になった万場兄弟の投球によって無残にも打ち砕かれた。
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龍谷千葉 000001
大阪西蔭 00000
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