安達弾~打率2割の1番バッター~ 第17章 夏の甲子園決勝 龍谷千葉VS大阪西蔭⑭
(あのサイドスローのピッチャー、右バッターにとってはかなり厄介だな。だが、次のバッターは左の田中だ。きっと打ってくれるはず)
そんな森崎監督の計算は、すぐに崩れた。
「大阪西蔭高校選手の交代をお知らせします。ファーストの斉藤君がピッチャー。ピッチャーの万場浩一君がファースト。ピッチャー斎藤君に代わりまして、万場浩二君。4番ファースト万場浩一。7番ピッチャー万場浩二。以上に代わります」
(何だ今のアナウンスは。えーと、あのサイドスローのピッチャーがファーストに入って、ファーストの斉藤に代わって新しいピッチャーが登板したってことか。しかも今度は左投げのサイドスローかよ。また厄介なピッチャー出してきたな。というか、フォームまでさっきの奴とそっくりだな。しかも名前がどっちも万場で、名前が浩一と浩二。こいつら兄弟か。そしてファーストに浩一を残してるってことはまさか……こいつはますます厄介なことになりそうだぞ)
1アウト満塁。打席に上がった田中は、チャンスに加えて清村弟が三振に倒れたあとの打席ということもあり、より一層気合が入っていた。
(俺は去年からずっと、4番の座を守り続けていた。それが、総次郎がきてからというもののすっかり5番が定位置になっちまった。この悔しさを、元4番の意地を、この打席にぶつけてやる!)
そんな田中に対する初球。まるで兄浩一の投球を鏡で映したかのような左右逆になっただけの全く同じサイドスローのフォームで、ストレートを内角高めに投げ込む弟の浩二。
「ストライク!」
(左対左で、あの腕の長さのサイドスローで、しかも内角高めのコースときたら、並みのバッターじゃ怖くて打てないどころかスイングすらする余裕もないだろうな。だが俺は、高校野球界最強龍谷千葉打線の元4番だ。そして3年の俺にとっては、高校最後の試合であり、同時に総次郎と同じチームで戦う最後の試合でもある。あいつに勝つためなら、例えデッドボールでも構わない。絶対に逃げないで、意地でも打点を上げてやる)
(万場兄弟のサイドスローを内角に投げられても、全く動じひんとはな。さすがは龍谷千葉打線の田中はん。度胸だけは認めたる。せやけど、打てなきゃ意味ないで)
2球目。キャッチャー川本がサインを出すと、浩二は首を振ることなくすぐに投球を始めた。投げられた球は、1球目よりも内角寄りのコースへ向かっていた。
(逃げてたまるか! 絶対打つ!)
恐怖心を気合で跳ね返し、フルスイングする田中。
「カーン!」
田中の上半身にぶつかりそうな軌道から内角低めへ斜めに落ちてきたカーブを、田中は思いっきり引っかけてしまった。何とかゲッツーだけは崩そうと全力疾走した田中だったが、満塁で守りやすかったこともありあっさりとホームゲッツーが成立した。
123456789
龍谷千葉 0000
大阪西蔭 000
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません