安達弾~打率2割の1番バッター~ 第17章 夏の甲子園決勝 龍谷千葉VS大阪西蔭⑬
「千石先輩、時間稼ぎお疲れ様でした。おかげでしっかり投球練習はできたんで、あとは俺達に任しといてください」
「悪いな。こんなピンチに交代やなんて」
「全然。むしろ、感謝したいくらいですよ」
「感謝?」
「甲子園決勝っていう大舞台で、俺達兄弟が目立てる絶好のチャンスを与えてくれはった千石先輩には、感謝しかありません」
「ほな、思う存分目立ってくれや。ただくれぐれも、悪い方には目立たんようにな」
千石は万場兄弟の兄浩一にそう言い残すと、マウンドを去っていった。
「さて浩一よ、ノーアウト満塁のこのピンチをどうしのごうか?」
「三者連続三振ってのはどないですか川本先輩?」
「ほな、それでいこか」
4回の表。ノーアウト満塁。打席に立つは、4番バッターの清村弟。
(このピッチャーのデータはないし、とりあえず1球目は様子見だな)
投球モーションを始める万場。190くらいはありそうな高身長の長い腕を、目一杯横に伸ばしたサイドスローから放たれる直球が、清村弟の体に当たりそうな内角ギリギリを抉るコースへと向かっていく。
「うわっ!」
その場に倒れ込む清村弟。デッドボールか、怪我はないかと心配する観客やテレビの前の視聴者達。しかし、この直後の審判のコールを聞いて、観客や視聴者達は安堵した。
「ファール!」
万場の投げた球は、避けようとした清村弟のバットのグリップに当たりファールボールとなった。
(あっぶねー。また怪我するかと思ったぜ。にしても、なんてサイドスローだ。滅茶苦茶打ちづらいし、何より怖すぎる)
(おいおい浩一。確かに内角ストレートのサインは出したが、そこまでエグイコースは要求してへんで。初めての甲子園の大舞台のマウンドの初球で、いきなりこんな球を投げ込むとはな。こいつ、将来大物になるで)
2球目。大きな体を目一杯伸ばしたサイドスローから、今度は外角ギリギリへストレートを投げ込む。
「ストライク!」
(外角球は踏み込まないと絶対に打てへん。せやけど、あんなデッドボールスレスレの内角球を投げられた直後じゃあ、怖くて踏み込めへんやろ。しかもお前、ついこの前までデッドボールで怪我してたらしいやんか。その復帰戦であんな球投げられたら、そらトラウマもんやろ)
そして3球目。
「ストライク! バッターアウト!」
外角低めへのスライダーに、清村弟は腰の抜けたスイングであっけなく三振した。
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