安達弾~打率2割の1番バッター~ 第17章 夏の甲子園決勝 龍谷千葉VS大阪西蔭⑫

「うわーノーアウト満塁になった」

「千石はここで交代か」

「一気に情勢が変わったな」

「ずっと大阪西蔭ペースだったのに、まだ4回でエースが降板か」

「代わりのピッチャーは百瀬じゃないのか」

「昨日完投したばかりらしいし、今日は投げないんじゃねーの」

「1年の万場か。聞いたことないな」

「今年の甲子園優勝は、龍谷千葉になりそうだな」

「ああ、間違いない」

「いや、そうとは限らないぞ」

「キャプテン、どうしてですか?」

「前に大阪西蔭と練習試合をした時に、あのピッチャーと対戦しているんだ」

「結果はどうだったんですか?」

「全員あの双子相手に手も足も出なかった。安達も含めてな」

「マジっすか。ていうか、あいつ双子何ですか?」

「ああ。それも、かなり厄介な」

「何が厄介何ですか?」

「双子はそれぞれ右と左のサイドスローでな、必ず右対右、左対左になるように1回1回交代してきやがるんだ」

「でも、1回交代したらもう試合に出られなくなるんじゃ?」

「そうならないように、交代したピッチャーは1塁守備につくんだ」

「なるほど。それじゃあ無限に投げれますね」

「厳密に言うと、無限ではないけどな。同一イニングの中で最初ピッチャーだった人が他の守備位置についてから再びピッチャーに戻るまでは認められているけど、そこからまた違う守備位置につくことはルールで禁止されている。だから、例えば相手が右、左、右、左のジグザグ打線だった場合は、スリーアウトにする前に1人でもランナーを許せば4人目からその交代は使えなくなる」

「なるほど」

「ただ、あくまで同一イニングの話だから、イニングが変わればまた同じように交代できる。それに、キレイに左右ジグザグにしているチームってそこまで多くないからな。だから実質、ほぼ無限に右対右、左対左の有利な状況で投げ続けることができるって訳だ」

「さすがキャプテン。そんなマニアックなルールまで把握してるなんて凄いっすね」

「いや、実を言うと俺も知らなかったんだけどな。あの双子と対戦した後に慌てて調べたんだ。とにかく、いくらあの龍谷千葉打線でも、あの双子を打ち崩すのは至難の業だ。俺はこの試合、大阪西蔭が勝つとみた。なあ安達、お前はどう思う?」

「僕は……」

 安達が答えようとしたその時、テレビに集中していた他の部員達が声を上げた。

「あっ!」

 安達や星が慌ててテレビ画面を見ると、打席に立っていた清村弟が倒れていた。