安達弾~打率2割の1番バッター~ 第17章 夏の甲子園決勝 龍谷千葉VS大阪西蔭①

2021年4月5日

 その圧倒的な打力で5年連続の甲子園出場を決め、ベスト8が2回、ベスト4が3回と輝かしい功績を残してきた千葉の絶対王者、龍谷千葉高校。そして今年、6年連続の甲子園出場を果たした。しかし、いつもなら優勝候補の一角として紹介される千葉の絶対王者の前評判は、かなり低いものだった。

『好守の要である清村総次郎君が怪我で出場できない以上、優勝はないだろう』

『地方予選の決勝でほぼノーヒットに抑えられた今の龍谷千葉に、打撃破壊と呼ばれたかつての輝きは感じられない』

『4番バッターを全打席敬遠するようなチームに、絶対王者など名乗る資格はない』

 こんな辛口の批評が目立つ中、当の選手達はそんな雑音を気にせず、ただひたすら甲子園優勝という目標に向かって走り続けた。

 2016年8月7日。龍谷千葉高校の甲子園初戦の相手は、甲子園初出場を決めた青森田山高校だった。初めての甲子園の空気に飲まれそうになる部員達を、監督が鼓舞する。

「キャッチャーで4番の清村弟がいない龍谷千葉など恐れるに足らん。お前ら、気合入れていくぞ!」

「はい!」

 そんな田山高校相手に、龍谷千葉高校先発の村沢は序盤から打ち込まれていた。

      123456789
 青森田山 32
 龍谷千葉 00

「今年の龍谷はダメそうだな」

 試合を見ていた観客席からも、そんな声が漏れ始めていた。

「村沢、大丈夫か?」

 清村弟に代わってマスクを被るキャプテンの馬場が、調子の上がらない村沢を気遣う。

「体は大丈夫です。でも、何か今一テンションが上がらなくて」

「はあ? 甲子園初戦の開幕投手に抜擢されたっていうのに、何がテンションが上がらないだ。ふざけんなよ!」

「すみません。でも、あの船町北との決勝はテンション上がったな―」

「いつまで過去の栄光を引きずってんだ。さっさとやる気だせ」

「はーい」

 3回に入り、村沢が調子を取り戻して無失点に抑えたあとから、龍谷千葉の猛攻が始まった。

      123456789 計
 青森田山 320000010 6
 龍谷千葉 00520203✕ 12

 終わってみれば、ダブルスコアの大勝。この初戦をきっかけに、龍谷千葉のことを悪く批評する声は一気に沈黙。龍谷千葉はその後も、勝ち星を重ねていった。

 13日(夏の甲子園2回戦)
      123456789 計
 グラーク 100300010 5
 龍谷千葉 20201411✕ 11

 16日(夏の甲子園3回戦)
      123456789 計
 龍谷千葉 0060005   11
 遠江   0010020   3

 18日(夏の甲子園準々決勝)
      123456789 計
 国際九州 100304011 10
 龍谷千葉 30012343✕ 16

 20日(夏の甲子園準決勝)
      123456789 計
 龍谷千葉 003012121 10
 明徳技術 101002001  5

 そして、2016年8月21日。龍谷千葉高校野球部は、夢にまで見た甲子園決勝の舞台に立っていた。