安達弾~打率2割の1番バッター~ 第16章 練習試合14連戦⑥

 船町北高校野球部が新体制になってから早3週間。そして、練習試合14連戦の内の前半7連戦が終了した。

 安達はこの7試合にフル出場。最初の試合ではいきなりホームランを打ってしまうなど、盗塁練習をするためにあえてホームランにならないヒットを狙うバッティングに苦労していた。しかし、3割の力でスイングするという方法を編み出してからは徐々にヒットの数が増えていき、7試合目には4打席連続シングルヒットという記録まで残すようになった。

 バッティングだけでなく、盗塁の方も好調だった。17回の盗塁中、失敗はわずか4回。つい最近まで1度も盗塁経験がなかった安達が、いきなり8割近い成功率を残すというのは驚異的なことだった。

 しかし、当の安達本人はそのすごさには気付いておらず、逆に自分の不甲斐なさに頭を抱えていた。

(ここ7試合で、エラー9個か。春季大会の頃は、それくらい当たり前のようにエラーしてたっけ。だけど、あれからさらに守備練習を重ねて、夏の甲子園予選では7試合中エラーは2回しかなかった。俺はそれで、自分は守備が人並みにうまくなったと勘違いしていた。でも違った。俺のエラーが少なかったのは、内野を守っていた3年生の先輩達のおかげだったんだ)

 ショートを守っていた尾崎先輩、サードを守っていた福山先輩、セカンドを守っていた新垣先輩の顔を思い浮かべる安達。

(先輩達の送球は、いつも安定して取りやすい位置に投げてくれていた。そして俺は、それが当たり前のことだと思い込んでいたんだ。だけど違った。あれは先輩達が毎日地道にやってきた守備練習で身につけた、すごい技術だったんだ。3年の先輩達が引退してからは初めての実戦の日々で、俺はそのことを痛感した。ちょっとしたショートバウンドや悪送球を投げられただけで、あんなにミスが増えるとは思わなかった。このままじゃダメだ。龍谷千葉に負けてから、俺はずっと盗塁技術を上げることばかり考えてきた。だけどその前に、まずはファーストの守備を一から鍛え直さないと)

 安達はその日の全体練習を全て終えたあと、ファーストミットを付けて1人練習場に向かうと、ピッチングマシンを使ったキャッチングの練習を始めた。