安達弾~打率2割の1番バッター~ 第16章 練習試合14連戦④

 試合は9回表まで進み、船町北打線はこの時点で二桁安打を記録していた。こういうと、一見大量得点を奪っているように聞こえるかもしれないが、実際に入った点数は初回の2点止まりだった。

     123456789
 船町北 20000000 
 千葉南 00000100

 なぜここまで点数が入っていないかというと、出塁した選手が軒並み盗塁でアウトになるからだった。

 盗塁試行数 11回

 盗塁成功数 3回

 盗塁失敗 8回

 船町北のチーム盗塁成功率は、現在たったの27%。しかもその内の成功3回は、全て星のものだった。

(初戦だし、いきなりうまくはいかないとは思っていたが、まさか星以外誰も成功できないとはな。こりゃあ俺が理想とする機動力野球の道のりは険しそうだ。しかし、まだ試合は終わっていない。せめて星以外に誰か1人だけでも意地を見せてくれよ)

 9回の表の先頭は、3番バッターのキャッチャー山田に代わって、代打の西郷が打席に上がった。

(正直言って、キャッチャーとしての能力だけなら西郷の方が上だ。しかし、山田はバッティングがいい。今日も4打数3安打と、チーム唯一の猛打賞を記録している。そして西郷の方はというと、まだ未知数だ。確か俺がスカウトの旅に出かける前に1度だけ見たバッティング練習では、全然当たっていなかった気がするが、あの時はまだブランクもあったろうしあまり当てにならない。この打席で、西郷のバッティング能力がどれ程のものかお手並み拝見といきますか)

 そんなことを考えながら西郷の打席に注目していた鈴井監督だったが、9回にきて疲れが見えてきた相手投手が制球を乱し、結局西郷は1度もバットを振らないままフォアボールで出塁した。

(これじゃあ全くわからん。明日は先発で出してみるか)

 続くバッターは、4番安達。1打席目で7割の力しか出していないのにホームランを打ってしまった安達は、2打席目からは5割の力でのバッティングを心掛けてスイングしていたものの、全て外野フライに終わっていた。

(ヒットを狙って打つって、以外と大変だな。ホームランより難いかも。うーん……よし、次からは3割の力で試してみるか)

 初球、相手キャッチャーは盗塁を警戒して、外の高めに外すストレートを要求した。その読み通り、投手が投球モーションに入った瞬間、西郷はスタートを切った。

(塁に出る度に、あんだけ毎回決まったように走られたんじゃ、まるで刺してくださいってお願いしているようなもんだぜ)

 キャッチャーはすかさず2塁へ送球するも、僅かに高めに浮いてしまう

「セーフ!」

(しまった。高目にいっちまったか。でもタイミング的には、コントロールができてたとしても刺せるか微妙だったな。あの1番バッター以外は盗塁下手ばかりだと思っていたが、そういう訳でもないのか)