安達弾~打率2割の1番バッター~ 第16章 練習試合14連戦③

 2016年8月7日。甲子園の全国大会が開幕した。それと時を同じくして、船町北高校野球部が新体制になってから初めての、そして尚且つ14連戦の初戦となる試合が始まった。

  船町北高校スターティングメンバー

 1 星 (中)
 2 野口(二)
 3 山田(捕)
 4 安達(一)
 5 村田(三)
 6 鈴木(右)
 7 佐々木(遊)
 8 滝沢(左)
 9 吉田(投)

「相手の千葉南高校は、甲子園予選で2回戦負けしている。正直大した実力はないが、ピッチャーのクイックがとにかく速い。盗塁を練習する相手としてはもってこいだ。お前ら、1回でも多く出塁して盗塁し、たくさん失敗しろ。そして失敗した原因を考えて次に生かせ。それを何度も何度も繰り返すことが、うちが目指す機動力野球への1番の近道だ!」

「はい!」

 先頭バッターの星は、相手ピッチャーの1球目をいきなりバントすると、俊足を飛ばして内野安打にした。

 続く2番バッター野口への2球目が投げられる間に、星は2塁への盗塁を成功させる。そして、野口が3球目をボテボテの内野ゴロに叩いた間に、星は3塁へと進塁した。そして、3番バッター山田が大きなセンターフライを打ち上げると、すかさずタッチアップでホームへと帰ってきた。

 船町北の新チームとしての初得点は、鈴井監督が目指す機動力野球の理想的な点の取り方だった。

(さすがは新キャプテン星。うちが目指す機動力野球を、すでに体現してくれている。そして、次は安達の打席か)

「おーい安達! 7割だぞ7割」

 ホームランを打たれたら盗塁の練習にならないからと念を押して安達に忠告する鈴井監督と、それに頷く安達。

(7割7割……)

 心の中で7割と何度も唱えらなら、打席に上がる安達。ピッチャーが初球のストレートを外角低めに投げる。

「ストライク!」

(7割7割……)

 心の中で何度もそう呟きながら、軽く1回スイングをする安達。

「ブン!」

(こいつがあの噂の全打席敬遠の安達か。やっぱり凄いスイングだな)

 安達のスイングを間近で見ていた相手チームのキャッチャーは、このスイングが7割の力とは夢にも思っていなかった。

(これが公式戦なら敬遠するところだけど、練習試合だし正々堂々勝負するか)

 2球目、内角高めに投げられたストレートを、安達は7割のスイングで捉えた。

「カキーン!!!」

 ライトが全速力でバックするも、打球はそれ以上の速さで伸びていき、ライトフェンスをギリギリ越えるホームランとなった。その光景を、唖然とした表情で見つめる鈴井監督。

(安達の奴……次からは5割の力でスイングさせないとダメだな)