安達弾~打率2割の1番バッター~ 第16章 練習試合14連戦①
「そこまで露骨にテンション下げることないだろう。そうだ、これから一気にテンションが上がる発表をしてやる。明日から、練習試合を14連戦行うぞ」
「えー!」
「14連戦も!」
部員達が驚きの声を上げる。
「今まで走力を上げる練習をさせてきたが、それだけでは俺の目指す機動力野球はできない。お前ら知ってるか? 昔、短距離走で活躍した陸上選手を代走専門の選手としてプロ野球チームに入団させた球団があったんだが、結果はどうなったと思う?」
「そりゃあ、盗塁を決めまくったんじゃないですか?」
「僕もそう思います」
「俺も」
「そう思うだろ? ところが、以外にも盗塁成功率は低くて大した活躍はできないまま引退したんだ。これは俺の見立てだが、ピストルの音に反応してスタートを切る陸上と、投手の投球モーションを目で確認してからスタートを切る野球との違いに対応できなかったんだろうな。要するに、走力で多少のアドバンテージがあったとしても、投手の投球モーションを盗む目が良くなければ、盗塁を成功させるのは難しいってことだ。ならどうするか? ひたすら投手相手に実戦での盗塁経験を積み上げて、何度も失敗しながら学んでいくしかないんだ。そうだろ、星?」
「はい。その通りだと思います」
星は元々足が速かったが、盗塁はそれほど得意ではなかった。しかし、練習試合や大会で何度も失敗を繰り返しながらも積極的に盗塁を試みてきたことで、今では千葉県を代表する盗塁のうまい選手の1人となっていた。
「という訳で、キャッチャーの肩が良かったりクイックや牽制のうまい投手がいるチームを中心に片っ端からオファーしてみた。幸い今のうちのチームは、龍谷千葉を敗退寸前にまで追い込んだ強豪校という扱いになっている。ほとんどのチームが喜んでオファーを受けてくれたよ。という訳で、明日から毎日1校ずつ違うチームがうちにやってくるから、そこと練習試合をしてもらう。注文はただ1つ。1回でも多く出塁して、毎回必ず盗塁を試みること。いいな?」
「はい!」
「あと安達、お前にはこれからしばらく実戦でのフルスイングを禁止してもらう。毎回ホームランを打たれたんじゃ、盗塁の練習にならないからな。7割くらいの力で軽く振るように」
「はい!」
「それと、練習試合で投げるピッチャーだが、吉田1人に14連戦全部投げさせる訳にはいかない。そんなことをしたら、肩が壊れてしまうからな。吉田は明日から1日おきに登板してもらって、合間の試合には1年の……」
(ついに俺の出番がきたか)
川合俊二は元気よく返事をする準備をしていた。
「伊藤にやってもらう」
「えっ! 僕がですか?」
「確か中学時代に登板経験があると言っていたよな?」
「確かにありますけど、いつもボコボコに打たれてましたよ」
「それでも構わない。この練習試合の目的は勝つことじゃないからな。ストライクゾーンに球を投げられさえすればいいんだ」
「監督、ちょっと待ってください。俺の存在を忘れてませんか?」
ここでたまらず、川合が抗議した。
「練習試合でお前のようなノーコンピッチャーを登板させて、相手の選手に怪我でもさせたら申し訳ないだろ。試合に出たいのなら、最低でも3球に1回はストライクゾーンに投げられるようにならんとな」
「……」
西郷と練習するようになってから確実にコントロールが良くなっているものの、未だに5球に1回くらいしかストライクゾーンに球が入らない川合には、返す言葉がなかった。
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