安達弾~打率2割の1番バッター~ 第15章 スカウトの旅⑥

「捕れない訳ないじゃないか! 手加減なんかする必要は一切ない。うちにきたら、思いっきり投げられるぞ」

「俺、プロ野球選手になりたいんです。プロになって、女手一つで俺を育ててくれた母ちゃんに楽をさせてやりたいんです。だから、プロのスカウトにアピールするためにも、甲子園に出場できるような強豪校に行きたいと思っていました」

「なら尚更、うちにくるべきだ。すでに3人もプロ入りの実績があるうちの高校なら、申し分ないだろう」

「俺……野球がしたいです。監督の学校で」

「本当か。やったー! よくぞ決心してくれた。じゃああとは、お母さんにもちゃんと話しをして説得しないとな。このあと君の家に行ってもいいか?」

「あの、うちの店明日が定休日なんで」

「じゃあ明日伺うよ。ちょっと待っててくれ」

 鈴井監督はメモ帳に電話番号とメルアドを書くと、金網の隙間から彼に渡した。

「都合のいい時間が決まったら、そこに連絡してくれ」

「わかりました」

「あっ、そうだ忘れてた。君の名前、まだ聞いてなかったね」

「比嘉流星です」

「流星か。カッコイイ名前だな」

「父親が付けてくれた名前らしいです。俺が生まれた夜に、たまたま流れ星を見かけたからって」

「いい話だな」

「ただ、それから1年もしない内に、漁師だった親父は水難事故でお星様になっちゃたんですけどね」

 比嘉の笑えないジョークで流れた微妙な空気を遮るように、遠く離れたベンチから叫ぶ監督の声が聞こえてきた。

「比嘉! もう試合終わったさー。早く戻ってこいね」

「じゃあ俺はこれで」

「比嘉、お母さんによろしくな」

 こうして鈴井監督は、スカウトの旅2日目にして早くも、特待生枠で獲得する即戦力のエースピッチャーを見つけ、本人の了解まで取り付けてしまった。

(最低でも2週間は覚悟していたスカウトの旅だったが、まさかこんなにも早く見つかるとはな。今日はお祝いだ。飲むぞー!)

 鈴井監督は一旦ホテルに戻ると、スマホでまた近所の飲食店を探した。グルメサイトのトップページには、沖縄料理を出す居酒屋さんが、ずらっと並んでいる。

(昨日と今日で、だいたいの沖縄料理は食べ尽くしたしなー。もうそろそろ、普通の居酒屋メニューも食べたくなってきた。そしてできれば、美人の女将さんがいる……)

 その時、ざーと眺めていたグルメサイトのレビューの中に、美人女将という文字を見つけた。

(えーと、割烹着を着た美人女将が1人で切り盛りする和やかなお店か。肉じゃがに焼き茄子に漬物、煮魚に焼き魚にお刺身と魚料理も豊富だ。そう言えばまだ、沖縄の魚は食べてなかったな。この店、いいじゃないか)