安達弾~打率2割の1番バッター~ 第15章 スカウトの旅⑪

 2016年8月6日。甲子園の全国大会が始まる前日。

 船町北高校のグラウンドが夕焼けに染まる頃、スカウトの旅に出ていた鈴井監督が、2週間ぶりに帰ってきた。両手には、大きな袋を2つ抱えていた。

 部員達はすぐに練習を中断すると、監督の前に集合した。

「お前ら、俺が旅に出ている間、サボらないでちゃんと練習してたか?」

「ちゃんとやってましたよ」

「監督、これが今朝やったベースランニングの全員のタイムです」

「おお! まだ2週間しか経っていないというのに、全員タイムが向上しているな。桐生先生、恐るべし」

「それで、スカウトの方はうまくいったんですか?」

「ああ。沖縄で良いピッチャーが見つかったぞ。黒山にも負けず劣らずのえげつないストレートを投げる、末恐ろしい奴だ。それと、その後に行った九州の方でも、再来年の特待生候補になりそうな面白い選手を見つけた。まっ、みんな楽しみにしていてくれ」

「ところで監督、その両手に持っている袋って」

「もしかして、お土産ですか?」

「おお、そうだ。沖縄と九州の土産を大量に買ってきたぞ」

「イエーイ!」

 大喜びする部員達。

「お前達の分はこれだな。星、みんなに1個ずつ配ってくれ」

 そう言って渡したのは、24個入りと書かれたちんすこうだった。

「余った分は、寮のおばちゃんにでも渡してくれ」

「あのーこれだけですか?」

「まだまだありますよね?」

「残りは全部、陸上部の桐生先生用だ。いきなり無理なお願いを聞いてもらったからな。これくらいの恩返しはしないと」

 一気にテンションが下がる部員達。

(ガーン)

(マジかよ)

(よりによってちんすこうかよ)

(めっちゃ微妙)

(沖縄ならサーターアンダギーだろ)

(パイナップルが良かった)

(紅芋タルトとかさ)

「そこまで露骨にテンション下げることないだろう。そうだ、これから一気にテンションが上がる発表をしてやる。明日から……」