安達弾~打率2割の1番バッター~ 第14章 新体制スタート⑦

「それとあともう1つだけ、今のうちが甲子園を目指すために足りないものがある。それは……投手力だ。うちには現地点でピッチャーが2人しかいない。2年の吉田は悪いピッチャーではないが、龍谷千葉のような強豪を抑えられるほど良いピッチャーでもない。そしてもう1人の方はろくにストライクすら投げられない初心者ときたもんだ。これではどんなに機動力野球で得点を奪ったところで、それ以上の失点を食らうのは目に見えている。そこでだ。去年、特待生枠で安達をスカウトしたように、今年は特待生枠で即戦力となるエースピッチャーをスカウトする」

「あのーお言葉ですが監督、そう簡単に即戦力のエースピッチャーなんて都合良くスカウトできますか?」

 新キャプテンの星が、早速キャプテンらしく監督に意見をした。

「もちろん、そう甘くはないだろう。去年はスカウト候補を探す時期が遅すぎて、有望な選手はみな進学先が決まってしまっていた。安達をスカウトできたのは、たまたま運が良かっただけだ。だから今年は、その反省を生かして明日からスカウトの旅に出かけようと思う」

「スカウトの旅?」

「全国の中学やシニアチームを回って、有望なピッチャーをスカウトするための旅だ。ただし、俺には旅に出る前にやらなけらばならないことがある。それは……理事長と交渉して、特待生枠を認めてもらうことだ」

「えー!」

「特待生枠、まだ決まってなかったんですか?」

「ああ。去年はあの黒山を始めとするピッチャー3人がいてくれたおかげで、特待生がくれば甲子園出場が狙いますよってな具合で割と簡単に交渉できたんだが、今年はあの3人が引退して、明らかに戦力ダウンしている。正直、去年のように交渉がうまく進むかわからないが、一応作戦は考えてきた。安達、それと川合、ちょっと理事長室まで付いてきてくれ」

「はい」

「えっ、俺も?」

「今から理事長と交渉してくるから、西郷、その間にみんなに自己紹介でもしておいてくれ」

 こうして鈴井監督は、安達と川合を引き連れて理事長室へと向かった。