安達弾~打率2割の1番バッター~ 第14章 新体制スタート⑥
2016年7月23日。あの夏の甲子園千葉大会決勝から2日後。部活を引退した3年生を除いた船町北高校野球部員達がグラウンドに集まると、鈴井監督から新チームの方針について語られた。
「最初に言っておく。今の戦力では、うちは来年も甲子園にはいけない。じゃあどうするか。安達のようなホームランバッターをあと8人打線に並べられたら、甲子園出場どころか全国優勝も間違いないだろう。だからお前らには、あと1年で安達並みのバッティング技術を身につけてもらう。みんな、できるよな?」
部員達は全員、いやいや無理だろうと動揺した顔をみせた。
「安心しろ。今のは冗談だ。安達は5歳の頃から10年以上毎日バッティングセンターでバッティングの技術だけを磨き続けた、言わばバッティングモンスターだ。そんな化け物と同じ技術が、1年やそこらで身につくはずがない。そこでだ。お前らには安達ではなく、新キャプテンの星を目指してもらう」
「えっ? ちょっと待ってください。新キャプテンって、俺がですか?」
「あっ、悪い悪い。順番が逆になってしまったな。新チームのキャプテンは星にやってもらう。反対する者はいるか?」
部員達は全員、拍手で新キャプテン星を歓迎した。
「話は戻るが、お前らには星のような俊足を生かしたバッティングと盗塁技術を磨いて欲しい。ホームランバッターになろうと思っても、どんなに努力したところで生まれついた才能や体格がものをいう部分が大きい。でもな、足の速さは努力次第で誰でもある程度のレベルまでなら上げられる。安達のようなホームランバターをあと8人並べるのに比べたら、星のような俊足のバッターをあと8人並べる方がはるかに現実的なはずだ。そこでなんだが、陸上部顧問の桐生先生にお願いして、明日からお前らには野球部と兼任で陸上部の部員になってもらうことにした」
「えー!」
「マジっすか!」
「でも、おもしろいかも」
「船町北高校野球部は今日から、走力を生かした機動力野球を目指す。新キャプテンの星を筆頭に、足で相手チームを引っ搔き回して得点を奪う。うちが来年の甲子園を目指すとしたら、もうこの手しかない。何か異論のある者はいるか」
「……」
「じゃあ決まりだな。それとあともう1つだけ、今のうちが甲子園を目指すために足りないものがある。それは……」
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