安達弾~打率2割の1番バッター~ 第14章 新体制スタート⑤
川合はその後も、謎の入部希望者に向かって30球ほど球を投げた。その内、ストライクゾーンにきた球は2球だけ。逆にストライクゾーンから50センチ以上外れた球は、10球以上にも及んだ。しかし、謎の入部希望者は、そのストライクゾーンから50センチ以上外れた球も含め、全ての球を1度も後ろに逸らすことなくキャッチしてみせた。
(野球を始めたばかりの俺でもわかる。こいつ、只者じゃないぞ)
「先輩、ちょっといいですたいか?」
謎の入部希望者はそう言うと、川合のすぐ近くまで歩み寄ってきた。
「先輩の投げ方は、下半身が早く開いてしまってるばい。これじゃあ腕の力しか球に伝わらんばい。ばってん、ボールを離す直前まで体を開かずに、左手で壁を作るようなイメージで投げるとよかたい」
「あのさあ、今まで聞いてなかったけど、名前は?」
「おいどんの名前は、西郷拓也ですたい。1年4組で、クラスメートからは西郷どん(せごどん)って呼ばれてますたい」
(西郷か。なるほど、それでおいどんなんだな)
「じゃあ俺も、せごどんって呼んでいいか?」
「もちろんですたい。あのー、先輩の名前は」
「俺は川合俊二。川合先輩とでも呼んでくれ」
「わかりましたばい」
このあと、2人はしばらくの間投球練習を繰り返した。川合の投げる球は相変わらずボール球ばかりだったが、ストライクゾーンから50センチ以上外れるような大暴投の数は明らかに減っていき、元々速かった球速もさらに速くなっていた。
「いやー西郷どんのアドバイスはすげーな。確実に自分が成長しているのがわかる」
「川合先輩こそ、さっきまでのあの腕の力だけのフォームであの球速を出せてたなんて凄いですたい。これから正しいフォームで練習していけば、160キロ越えも夢ではないですたい」
「なあ西郷どん、もし良かったら、これからも毎朝俺の練習に付き合ってくれねえか?」
「もちろんですたい」
「じゃあ明日から、毎朝5時にここ集合な」
「えっ! 5時ですたいか?」
「何だ西郷どん、まさか先輩の言うことが聞けないとでも?」
「わっ、わかりましたばい。5時ですたいね。絶対に行きますたい」
(5時かー結構キツイたい。でんも、練習の遅れを取り戻してレギュラーを目指すためには、これくらい頑張らんといけんたい)
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