安達弾~打率2割の1番バッター~ 第14章 新体制スタート④
投げ終わった球を拾っていた川合に、突然何者かが話しかけてきた。
「あのーすみませんたい」
「えっ?」
そこにいたのは、制服をきた身長160くらいの小柄な男だった。
「野球部に入部したいばってん、監督に挨拶がしたいばい。どこに行けばいいたいか?」
(こんな中途半端な時期に入部希望? ていうか変な喋り方だな。こいつ、何者だ?)
「今日は部活休みだから、監督は多分いないよ。ていうか君、どうして突然入部しようと思ったの?」
「実はおいどん、小学4年から中学3年まで福岡で野球をしていたばい。けんど、高校から千葉に引っ越したのを機に、野球は辞めて勉強に集中するよう親から言われてたばってん、部活には入らなかったばい。でんも、昨日の試合見てたらばってん、野球熱が再発してしまったばい。そんで、親を説得して無事入部の許可が下りたばってん、居ても立っても居られずにこんな朝早くからきてしまったばい」
(なるほど、この変な喋り方は博多弁か。でも、おいどんって確か、鹿児島だったような……)
「あのー、良かったら先輩の球受けましょうたいか。おいどん、キャッチャーやってたばってん」
「おーそれは助かるよ。俺さあ、ちょっとコントロールが悪いから大変だと思うけど頑張ってね」
「じゃあすぐに着替えますたい。他に誰もいないし、ここでいっかたい」
謎の入部希望者は、その場で着替えを始めた。謎の入部希望者がワイシャツを脱ぐと、右腕だけが異様に発達した上半身の筋肉が露わになった。
(何だあの体は。相当なトレーニングを積まないとあんな筋肉は付かないぞ。こいつ、体は小さいが意外とやりそうだな)
「先輩、準備できましたばい」
「おっ、おう。じゃあそこのネットの前で捕ってくれ」
「はい、わかりましたばい」
(この変な喋り方、なかなか慣れないな)
川合は色々戸惑いながらも、球が満杯になったかごから1球手に持つと、でかい体を大きくしならせながら球を投じた。
(あっ、やべ)
川合の球は、コースこそ真ん中にいったものの、地面から2メート以上高めに外れていた。
(こりゃあ捕れねえな)
そう思った川合だったが、謎の入部希望者は軽快にジャンプすると、高めに外れた川合の球を軽々とキャッチした。
「ナイスボール! 力のこもった良い球たい」
謎の入部希望者は、本音なのか嫌味なのかわからないそんなセリフを吐きながら、川合の胸の高さピッタリに返球した。
(こいつ、本当に何者なんだ?)
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません