安達弾~打率2割の1番バッター~ 第14章 新体制スタート③
小学生の頃から、川合俊二はでかかった。川合が同級生達と遊んでいる様子をはたから見ると、身長が頭一つ抜けている上級生のお兄さんが下級生達の面倒をみてあげているようにしか見えなかった。
川合は身長だけでなく、スポーツの実力もまた頭一つ抜けていた。サッカー、ドッジボール、バスケットなど、体育の授業では常にトップの成績を収めていた。
中学生になると、すでに170を超えていた身長を買われてバレー部にスカウトされた。川合はすぐに頭角を現し、3か月後にはチームのエースアタッカーとなっていた。そして、川合が中学3年生の時、チームは全国大会出場を果たす。川合は全国の大舞台で、その身体能力を生かした高い跳躍からの豪快なスパイクを決めまくった。チームは3回戦で敗れたものの、川合は優秀選手に選ばれて表彰された。
「うちの高校に来てくれないか?」
川合には、全国の高校からそんな誘いが10校以上もきていた。しかし川合は、その誘いを全て断った。なぜなら、川合はもうバレーに飽きていたからだ。
(バレーはもう十分極めた。どうせやるなら、次はもっと難しいスポーツをやりたいな)
こうして、川合が次に選んだスポーツが野球だった。
「すげー!」
「130は軽く超えてるぞ!」
「お前、本当に初心者なのか?」
船町北高校野球部に入部してから初めての投球練習で、川合の身体能力の高さは一気に注目された。しかし、それも長くは続かなかった。
「確かに速いけど」
「最初の1球以来、1回もストライクに入ってないな」
「やっぱり初心者だな」
「おい川合、コントロールがめちゃくちゃ過ぎて捕れねえよ。まともに投げられるようになるまでは1人で練習してくれ」
それ以来、川合は毎朝夜明けとともに起きては、寮の朝食の時間がくるまで、ただ1人黙々と防護ネットに向かってピッチング練習を繰り返すという日々を3か月続けていた。しかし、コントロールは一向に改善されなかった。
(こんなに練習しているのに、全然コントロールが効かない。バレーの時は、やり始めてから3か月後にはエースアタッカーになれてたのに。サッカーでも、ドッジボールでも、バスケでも、俺はすぐにこつを覚えて簡単に活躍することができた。それが野球ではこのザマだ。せっかく3年の先輩達が引退して、これから試合に出してもらえるチャンスだっていうのに、まさかこんなことになるなんて……)
川合はかごに入った最後の1球を手に持つと、でかい体を大きくしならせるダイナミックな投球フォームで、豪快に球を投じた。
「カーン!!」
川合の投じた球は、縦横共に2メートルあるネットの外側のパイプに当たって大きな音を響かせた。
(やっぱり、野球にして正解だったな)
今までことスポーツにおいては、ほとんど苦労することなく軽々と壁を乗り越えて活躍してきた川合。そんな川合にとって、人生で初めてぶつかることとなったコントロールという大きな壁。それを川合は、これからどう乗り越えていこうかと前向きに楽しんでいた。
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