安達弾~打率2割の1番バッター~ 第15章 スカウトの旅⑤

「あっ、その前に、君って今何年生?」

「3年」

「おお、良かった。じゃあ来年から、我が船町北高校野球部で、特待生枠で入部してくれないか?」

 鈴井監督からの突然の申し出に、しばらく黙りこんだ彼だったが、やがて口を開いた。

「俺の球、捕れますか?」

「えっ?」

「そのチームに、俺の球をちゃんと捕れるキャッチャーはいますか? 俺、中1の頃は結構試合にも出してもらえてたんです。でも、中2の途中で、3年生が引退して今まで受けてくれた先輩のキャッチャーがいなくなってから、俺の球をまともに捕れるキャッチャーはいなくなった。試合ではパスボールを連発されるは、監督もそんなキャッチャーを注意するどころか俺に手加減して投げろとかいう始末で。それで、監督を無視して本気で投げてたら、いつの間にか試合に干されて……」

(なるほど。これほどのピッチャーが試合に出てないのは変だと思ったが、そんな理由だったのか。にしても、さっきの壁当てを見るにコントロールは良さそうだし、純粋に球が速すぎてキャッチャーが捕れないってことだよな? やっぱりこいつはとんでもない大物だ。絶対にスカウトしてみせる)

「安心しろ。うちのチームは、千葉の甲子園予選で準優勝した強豪校だ。しかも、プロ入りがほぼ決まっているピッチャーが3人もいた。そんなピッチャー達の球を受けてきたうちのキャッチャーが、君の球を捕れない訳……」

 そう言いかけた鈴井監督は、3人の球を受けていた鶴田はすでに引退していること、そして控えキャッチャーの山田が、練習でしょっちゅう黒山のストレートをこぼしたりパスボールしていたことを思い出した。

(ヤバイ……あいつじゃ彼の球は満足に捕れんかもしれん)

「捕れない訳……」

(いや、うちにはもう1人、キャッチャーがいるじゃないか)

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 2日前。鈴井監督がスカウトの旅に出発する前日。

 その日新しく入部した西郷を座らせて、ピッチャーの吉田がピッチング練習を始めた。オーバースローの右腕から、綺麗なバックスピンの掛かったストレートが放たれる。その様子を、西郷の後ろで鈴井監督が見守る。

「パン!」 

「先輩、ナイスボールたい!」

(この時期の入部だしまともにやれるか心配だったが、キャッチングは問題なさそうだな)

 その後、カーブやチェンジアップも交えながら、吉田は30球ほど投げた。

「次は練習中のカットボールいくぞ!」

 そう言って吉田が投げた球は、かなり手前でバウンドし、ストライクゾーンから50センチ程外に逸れた。しかし、西郷はその球に素早い身のこなしで反応しキャッチする。

(問題ないどころか、滅茶苦茶うまいじゃないか)

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「捕れない訳ないじゃないか!」