安達弾~打率2割の1番バッター~ 第15章 スカウトの旅④
「パン!」
さっきの選手が壁に向かって軽く球を投げると、跳ね返った球が真っすぐ彼の元へと戻ってくる。
「パン!」
「パン!」
「パン!」
彼は何度か壁当てを繰り返したあと、少し距離を取ってから、今度はセットポジションで球を投じた。
「パン!!」
さっきよりも少し大きな音が鳴り響いた。跳ね返った球はまた、真っすぐ彼の元へと戻っていく。
「パン!!」
「パン!!」
「パン!!」
彼はセットポジションからの壁当てを何度か繰り返すと、今度はさらに距離を取ってから、大きく振りかぶるオーバースローから球を投じた。
「パン!!!」
さっきよりもさらに大きな音が鳴り響く。跳ね返った球はまたまた、真っすぐ彼の元へと戻っていく。
「パン!!!」
「パン!!!」
「パン!!!」
淡々と壁当てを繰り返す彼の投球を、グラウンドの外から見ていた鈴井監督は、自分の目を疑っていた。
(どういうことだ。この子が投げてる球……琉伊君よりも速くね?)
鈴井監督はカバンから目薬を取り出すと、両目に2,3滴垂らして、目をパチパチさせた。そしてもう1度、彼の投球をじっくりと見直した。
(どうやら、見間違いではなさそうだな。この伸びのあるストレートは、琉伊君以上、いや、それどころか黒山と比べても見劣りしないんじゃないか?)
「あのーそこのおっさん。さっきから何ジロジロ見てんの? 気になるんだけど」
(やべっ、気付かれた。ここは変に誤魔化すよりも、正直に話した方が良さそうだな)
「実は私、千葉の野球部で監督をやっていて、今日はスカウトのために見学してただけで、決して怪しい者では……」
「スカウト? ああ、琉伊をスカウトしにきたんだ」
「そのつもりだった。君の投球を見るまでは。ねえ君、うちの高校で甲子園を目指してみないか?」
ついさっきまで、島袋瑠伊をスカウトしようと決めていた鈴井監督。しかし、名前も知らない彼のストレートを見た瞬間、鈴井監督の心は完全に、彼の方へと移り変わっていた。
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