安達弾~打率2割の1番バッター~ 第15章 スカウトの旅④

2021年3月14日

「パン!」

 さっきの選手が壁に向かって軽く球を投げると、跳ね返った球が真っすぐ彼の元へと戻ってくる。

「パン!」

「パン!」

「パン!」

 彼は何度か壁当てを繰り返したあと、少し距離を取ってから、今度はセットポジションで球を投じた。

「パン!!」

 さっきよりも少し大きな音が鳴り響いた。跳ね返った球はまた、真っすぐ彼の元へと戻っていく。

「パン!!」

「パン!!」

「パン!!」

 彼はセットポジションからの壁当てを何度か繰り返すと、今度はさらに距離を取ってから、大きく振りかぶるオーバースローから球を投じた。

「パン!!!」

 さっきよりもさらに大きな音が鳴り響く。跳ね返った球はまたまた、真っすぐ彼の元へと戻っていく。

「パン!!!」

「パン!!!」

「パン!!!」

 淡々と壁当てを繰り返す彼の投球を、グラウンドの外から見ていた鈴井監督は、自分の目を疑っていた。

(どういうことだ。この子が投げてる球……琉伊君よりも速くね?)

 鈴井監督はカバンから目薬を取り出すと、両目に2,3滴垂らして、目をパチパチさせた。そしてもう1度、彼の投球をじっくりと見直した。

(どうやら、見間違いではなさそうだな。この伸びのあるストレートは、琉伊君以上、いや、それどころか黒山と比べても見劣りしないんじゃないか?)

「あのーそこのおっさん。さっきから何ジロジロ見てんの? 気になるんだけど」

(やべっ、気付かれた。ここは変に誤魔化すよりも、正直に話した方が良さそうだな)

「実は私、千葉の野球部で監督をやっていて、今日はスカウトのために見学してただけで、決して怪しい者では……」

「スカウト? ああ、琉伊をスカウトしにきたんだ」

「そのつもりだった。君の投球を見るまでは。ねえ君、うちの高校で甲子園を目指してみないか?」

 ついさっきまで、島袋瑠伊をスカウトしようと決めていた鈴井監督。しかし、名前も知らない彼のストレートを見た瞬間、鈴井監督の心は完全に、彼の方へと移り変わっていた。