安達弾~打率2割の1番バッター~ 第15章 スカウトの旅③
(この学校は、沖縄西中学校か。そして相手の学校は……那覇中央だと! 今日見に行く予定だったところだ。ラッキー。今日は何かとついてるな)
沖縄西と那覇中央の練習試合は、6回まで進んでいた。
1234567
沖縄西 00000
那覇中央 20121
(あの長身に褐色の肌、間違いない。今投げてるのは、エースの琉伊君だな)
那覇中央のエース、島袋琉伊。沖縄基地で働くアメリカ人の父親を持つハーフ。身長179センチの長身から繰り出される直球は、中学生では規格外の最速140キロをマークする。
「ストライク! バッターアウト!」
沖縄西の選手が、為す術もなく三振に倒れた。
(いい球投げるな―。噂通りの速球だ)
「ストライク! バッターアウト!」
(おっ、今のはスライダーか。結構な落差があったな。140近い速球にあのスライダーを混ぜられたら、そりゃ打てんわな)
「ストライク! バッターアウト! チェンジ!」
(島袋琉伊……噂以上の良いピッチャーだ。しかし、なぜだろう? そこまでビビっとくるものがないんだよな。そうか、俺が黒山の速球を見慣れてしまっているせいだな。確かに琉伊君の球は、中学生としては速い。だが、彼が来年高校で投げた時に、果たしてあの龍谷千葉打線を抑えられるかと問われれば……正直微妙だ。しかし、それは当たり前の話だ。全国を探したって、中学生で龍谷千葉相手に通用するピッチャーなど存在しない。でも、これから1年、2年と順調に成長していけば、黒山クラスのピッチャーに成長する見込みは十分ある。ようし、試合が終わったら、彼に声をかけてみるか)
そんなことを考えながら鈴井監督が試合を見ていると、沖縄西のベンチに座っていた選手と監督が、何やら揉め始めた。
「比嘉! まだ試合中さー。どこに行くね」
「投球練習ですよ。どうせ今日も出してくれないんでしょ」
その選手は、監督の制止を無視して勝手にベンチを抜け出すと、グラウンドの端の方へと行ってしまった。
(試合に出してもらえなくて、拗ねちゃったのかな? 若いなー。でも今の子、結構いい体してたな。投球練習ってことは、ピッチャーか。ちょっと気になるな。行ってみよう)
鈴井監督は、グラウンドの外周をグルっと回って、さっきの選手が向かった方へと移動した。
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