安達弾~打率2割の1番バッター~ 第14章 新体制スタート⑪
理事長との交渉により、特待生枠を来年と再来年の2年分獲得した船町北高校野球部。それは同時に、明日から鈴井監督がスカウトの旅に出かけることの決定でもあった。
「という訳で、俺は明日からスカウトの旅に出かける。俺が不在の間は、これからやる今日の練習メニューを毎日やること。それと同時に、陸上部の桐生先生の指導も定期的に受けてもらう。詳しい内容や練習の日程は、これから配るプリントに書いてあるから目を通しておくように」
全員にプリントを配る鈴井監督。
「理事長とうまく交渉して、死に物狂いてもらった大切な特待生枠だ。だから俺は、本当に活躍が見込めるピッチャーをスカウトできるまでは帰ってこない。2週間後か、3週間後か、はたまた夏休みが終わる来月の終わりギリギリまで粘る可能性もある。そんな俺がスカウトの旅から戻ってきた時に、お前らがどれだけ成長できているか期待しているぞ」
「はい!」
「それじゃあ早速、練習を始めよう。これからの練習メニューは、今までのメニューとそこまで変わらないが、1つだけ大きな違いがある。それは、練習の始めと終わりに全員の、ベースランニングのタイムを計ることだ。このタイムは、これからスタメンを決めていく上で参考にするから、真剣にやるように。それじゃあ始め!」
こうして、船町北高校野球部の新体制になってから初めての練習がスタートした。準備運動が終わると、早速1本目のベースランニングが始まった。2年生から順番に、1人1人のタイムを測定していった。
1位 星 14.49秒
2位 西郷 15.01秒
3位 川合 15.39秒
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6位 山田 16.22秒
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20位 伊藤 17.99秒
21位(最下位) 安達 19.07秒
(星はさすがだな。足の速い選手でもベースランニングで14秒台を出すのは難しいと言われているが、まさか14秒台の前半で走ってくるとはな。でもどうせなら、機動力野球を目指すチームのキャプテンとして夢の13秒台を目指してもらおうか。あとは西郷が予想外の好タイムだな。途中加入で不安もあったが、山田との正捕手争いでは1歩リードといったところか。川合もさすがの身体能力だ。エースになると大口を叩くだけのことはある。これに走塁の技術が加われば、さらに大化けしそうだぞ。しかし、その前に川合はストライクにボールが入らんことには話にならんがな。バッティングの方もまだまだ、初心者丸出しの大振り扇風機だしな。そして最下位は、大差で安達か。まあ昨日の今日で急に足は速くならんよな)
鈴井監督は、機動力野球で甲子園を目指すという決断に大きな影響を与えた、昨日の安達との会話を思い出していた。
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「敬遠なんてされているようじゃダメなんです」
「えっ? ちょっと何言ってるかわからないんだが」
「ほら、僕が敬遠されるってことは、それだけ塁に出しても怖くないランナーだってことですよね。だから、例えば清村兄とか星先輩みたいな盗塁をバンバン成功させる怖いランナーに僕もなれたら、もう敬遠なんてされずにまた勝負してもらえるんじゃないかと思って」
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(清村兄や星のような怖いランナーか。まだまだ道は険しいが、安達、頑張れよ)
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