安達弾~打率2割の1番バッター~ 第14章 新体制スタート⑩

 鈴井監督が安達と川合を引き連れて理事長室に行っている間、グラウンドでは自己紹介が行われていた。

「初めましてたい。1年4組、西郷拓也たい。小4から中3まで、福岡のチームでキャッチャーやってたばい。あだ名は西郷どん。よろしくお願いしますたい。何か質問があったらどうぞたい」

 西郷の癖の強い話し方に、クスクスと笑いが漏れる中、新キャプテンの星が話を切り出した。

「質問の前に、まずは俺達も自己紹介するか。じゃあ1年の伊藤から五十音順で。1年が終わったら今度は2年の青木から五十音順にやっていこう」

「1年1組、伊藤小次郎。ポジションは……」

 
 こうして自己紹介は進んでいき、残すところあと2年生の2人というところまできた。

「2年6組、山田祐樹、ポジションはキャッチャー。3年の鶴田先輩が引退したんで、このチームのキャッチャーは今のところ、俺と西郷君の2人だけ。悪いが西郷君、正捕手の座を譲るつもりはない。君は俺が引退するまで、せいぜい補欠のキャッチャーとして頑張ってくれたまえ」

「じゃあ最後は俺か。2年8組、吉田拓也。ポジションは監督曰く、悪くはないが良くもないピッチャーです」

 ここで軽く笑いが起こった。

「西郷どん君とは下の名前が同じで何となく運命感じてるんで、俺的には性格の悪い山田よりも西郷どん君に正捕手になってもらいたいかなー」

「おい吉田! 性格が悪いとは何だ!」

「だって本当のことじゃねえか」

「俺みたいな成人君子を捕まえて、性格が悪いとは言語道断だな」

「山田君、聖人君子のせいの字は、成人式の成じゃなくて聖なるバリアミラーフォースの聖だぞ。お前が聖人君子だったら、そんな間違いしねえよ」

「何で文字で書いてないのに間違ってるってわかるんだよ」

 いつもの口喧嘩を始めた2人を、新キャプテンの星が止めに入る。

「まあまあ2人ともそこまでだ。あとのメンバーは、今理事長室に行っている安達と川合だけだな。一応2人について俺から簡単に紹介しようか?」

「あっ、大丈夫たい。安達とは同じクラスばってん、よく知っとるたい。それと川合先輩とも、昨日からピッチング練習に付き合ってるばってん、面識があるたい」

「そうか。ところでさ、なんで川合を先輩呼びしてるの?」

「えっ?」

「だって同じ1年なのに。ああもしかして、学年は一緒だけど部活歴は3か月先輩だからってことか。でもそしたら安達だけ先輩呼びしてないのは変だし、どうしてだ?」

「ちょっと待ってくださいたい。川合先輩って、1年生なんたいか?」

「そうだよ」

(図体がでかかったばってん、完全に先輩かと思い込んどったばい。そういえばさっき、監督が川合らしき人のことを初心者とか言っとったばい。道理で、あんなにコントロールが悪い訳たい。川合の野郎、先輩面しやがって……覚えてろよ)

 西郷が怒りに震えている頃、2年のキャッチャー山田は、西郷が川合のピッチング練習に付き合っているという話に引っかかっていた。

(あのひどいコントロールの川合のピッチング練習に付き合うったって、ろくに捕れないだろうに。球拾いでもさせられてるのか?)

「なあ西郷君、川合のピッチング練習に付き合ってるっていうのは本当か?」

「そうですたい。今日も朝の5時から球を受けてたばい」

(朝の5時だって! そんな早くから練習してるのか。ていうか今、球を受けてたとか言ったよな)

「でもあいつ、構えた場所どころかストライクゾーンにすらろくに入らないだろ。そんな奴の球を本当に受けられるのか?」

「そうたいそうたい。めちゃくちゃ荒れ球たい。まあでもおいどんは、山田先輩とは違ってちょっとくらい外れた球がきても全部キャッチできる技術があるばってん、大丈夫たい。でも山田先輩は、無理に川合の球を受けることはなかたい。下手なキャッチャーがあいつの練習に付き合おうとするんは、とっても危険ですたい」

(下手なキャッチャーだと。こいつ、調子に乗りやがって)

 また新たな喧嘩の火蓋が切られそうになったその時、グラウンドに鈴井監督が安達と川合を引き連れて戻ってきた。

「特待生枠、なんと2年分も取れたぞー!」