安達弾~打率2割の1番バッター~ 第13章 決勝戦 船町北VS龍谷千葉⑨
「ブンッ! ブンッ! ブンッ!」
安達は村沢を睨みつけながら、思い切り3回スイングした。鋭いスイング音が、マウンドにいる村沢まで聞こえてくる。その姿を見た村沢の脳裏には、春の大会で3か月前に安達と対戦した時のことがよぎっていた。
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「カキーン!!!!」
「うわっ!」
村沢は強烈なピッチャーライナーに思わず恐怖し、咄嗟に体を捻って打球をかわした。打球は二遊間を抜けるタイムリーヒットとなった。
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(あの時投げたのは確か、全力で投げた落ちる癖球。そして今俺が投げているのは、ただ低めのストライクゾーンに入れるためだけの、キレも球速もないストレート。あの球でさえあんな強烈なヒットにされたんだ。もしも万が一今投げている球が少しでも浮いてしまったら……間違いなくホームランにされる)
「プレイ!」
安達の素振りが終わり、試合が再開する。
村沢の安達に対する3球目は、地面にワンバンするボール球となった。
(村沢の奴、大丈夫か?)
キャッチャー清村弟の心配をよそに、村沢は4球目もまた同じようなワンバンのボール球を投げた。
(練習ではこんなに外れたボール球になることはほとんどなかったのに。緊張でもしてるのか?)
そして5球目。清村弟はまた低めへのストレートを要求するも、村沢は首を振ってそれを拒否する。
(もしかして村沢の奴、正々堂々自分の球で勝負したいとか青臭いこと考えてるのか?)
しかし、村沢が考えていたことはその逆だった。首を振った直後、村沢は左手のグラブを一塁方向に向けて動かした。
(そのサイン、歩かせろってことか。一塁が埋まっているこの状況で歩かせるって……村沢の奴、ホントビビりだな)
清村弟は立ち上がると、ストライクゾーンから1メートル以上離れた場所まで移動してから村沢に安達を敬遠させた。
「ボールフォア!」
観客席からは、またもやヤジが飛んでくる。
「逃げんな!」
「ちゃんと勝負しろ!」
「卑怯者!」
(相変わらず凄いヤジだな。村沢のメンタルも心配だし、タイム入れとくか)
清村弟はタイムをとると、マウンドの村沢の元に向かう。
「大丈夫か村沢?」
「全然大丈夫じゃないよ。安達に打たれるのが怖すぎて全然練習通りに投げられなかった。俺はもうこの試合、安達の打席は全打席敬遠したいよ」
「そうか。なら大丈夫そうだな」
「えっ?」
「安達相手には怖くてまともに投げられないっていう大丈夫じゃない自分をしっかり自覚できているなら、お前は大丈夫だ」
「なるほど。俺は大丈夫なのか」
「お前の希望通り、これから安達の打席は全打席敬遠する。その代わり、他のバッターはしっかり抑えて、点は1点もやらないぞ。それで大丈夫だよな?」
「ああ、大丈夫だ」
この後すっかり調子を取り戻した村沢は、後続のバッター新垣をスライダーで三振に抑えて、2アウトランナー1,2塁のピンチを切り抜けた。
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船町北 0
龍谷千葉
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