安達弾~打率2割の1番バッター~ 第13章 決勝戦 船町北VS龍谷千葉⑧

「カキーン!!!!」

 最初に安達と対戦することになった黒山は、初球に投げたコントロールミスで高めに浮いたストレートをあっさりとホームランにされた。

(くっそー低めに投げようと意識し過ぎて、変に力が入っちまった)

「まあ黒山は球威で抑えるタイプのピッチャーだし、コントロールはそこまでよくないからな。こうなるのは想定内だ。だが、俺ならこうはいかねーぜ」

 そう豪語する水谷がマウンドに上がった。

「ストライク!」

「ストライク!」

 アンダーからのストレートを低めに集め、あっさりと2ストライクまで追い込んだ水谷。

(練習ではいつもボロクソに打たれてきた安達相手に、やっと一泡吹かせられるぜ)

 水谷は3球目もアンダーからの低めのストレートを投げようとした。

「カキーン!!!!」

 ちょっとした油断からか若干浮いてしまったそのストレートは、黒山に続いてまたもやホームランにされてしまった。

「水谷の奴までだらしねーな。低めのコントロールはピッチャーの基本だろ。まあ最後に俺が、きっちり締めてやりますか」

 そう豪語する白田は、その言葉通り低めに球を集めてあっさりと安達を見逃しの三振に抑えた。

「どうだ安達! 完璧に抑えてやったぞ!」

 そう得意気に叫んでからマウンドを降りようとする白田に、鈴井監督が声をかける。

「白田! あと3回勝負しろ!」

「えっ、3回もですか?」

「1試合中、バッターは4回くらい打席に上がるのが普通だ。試合を通じて安達が活躍出来るのか判断するならそれくらい見ないとダメだろ」

「確かにそうですね。わかりました」

 白田は2回目の対戦でも、安達を見逃しの三振に抑えた。

(最初は楽勝かと思ったけど、思った以上に神経使うな。今は練習だからそれほど緊張感はないけど、これがもしも本番の試合だったら……)

 そんなことを考えながら投げた3回目の対戦の初球は、地面スレスレのボール球となった。

(いかんいかん。ビビり過ぎだ。低めを意識しながら、しっかりストライクゾーンにも入れないと)
 
 しかし、2球目の球も初球と同様地面スレスレのボール球となってしまう。

(落ち着け俺。低めのストライクゾーンに投げる練習なんて今まで何度もしてきただろ)

 一旦深呼吸をしてから投げた3球目。低めの際どいコースにいったが、判定はボール球だった。

(くっそー判定厳し過ぎねーか。このままストレートのフォアボールなんかになったらダサすぎるな。せめて1球だけでもストライクに入れとかないと)

 こうして投げた4球目。ストライクに入れたいという思いが強すぎたのか、球が高めにいってしまう。

(しまっ……)

「カキーン!!!!」

 安達の打った打球は、今日1番の飛距離のホームランとなった。

「みんな、これでわかっただろ。いくら低めの球が打てないとバレた所で、その狭いストライクゾーンにコントロールするのは容易じゃない。そして1球でも浮いた球がくれば、安達はそれを見逃さず確実に捉える。コントロール重視の置きにいくような球の場合、捉えた打球はほぼ確実にホームランとなるだろう。いくらコントロールに自信があるピッチャーでも、たった1回のコントロールミスが即ホームランに繋がってしまうというプレッシャーに晒されながら投げれば、少なくとも1試合に1回くらいはミスをするはずだ。つまり安達は、例え弱点がバレて低めのコースだけを狙われたとしても、1試合に1本はホームランを打てる。全打席敬遠でもされない限りはな」

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「タイムお願いします」

 1回表、2アウトランナー1塁。村沢が1ボール1ストライクからの3球目を投げる直前、安達はタイムをかけた。