安達弾~打率2割の1番バッター~ 第13章 決勝戦 船町北VS龍谷千葉⑦

 安達バッティングセンター。

(はー今日も客が全然こねえな。おっ、そんなことを言ってるそばからお客さんかな?」

「ただいまー」

「えっ? 弾、まだ正午なのにどうしたんだ?」

「期末試験の日は午前授業なんだよ」

「あーそういえば1学期の時もそうだったな。すっかり忘れてた。昼ご飯なんも用意してねえや。じゃあこれで好きなもん買ってこい」

 そう言って100円玉を1枚渡そうとした父親だったが、安達はすでに1番奥にある新型のピッチングマシーンで打撃練習を始めようとしていた。

(昨日は初めてバッティング練習を休んで勉強してるかと思ったら、今日は昼ご飯も食べずにいきなりバッティング練習か。弾の奴ひょっとして……試験のできが悪くてヤケにでもなったのか?)

 父親が検討違いな推測をしている間も、安達は夢中になって低めの球を捨てる新しいバッティング方法を試していた。

(まずは100球打って、ヒット性の当たりは20回か。今までと同じ成績……でも、その内低めの球を30球以上見逃していることを考えれば、悪くないな)

 この日の安達は、バッティングセンターの営業が終わる夜の8時まで、休みも取らず一心不乱にバッティング練習を続けた。最初は100球中20回しか打てなかったヒット性の当たりも、練習を終える頃には30回を超えるまでになっていた。

(1年以上成績が向上してなかったのに、たったの1日でここまで伸びるとは。ようし、これからは一生低めの球を捨て続けるぞ)

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「……ということがありまして、それ以来低めの球は1回も打っていません。いや、打ってないというか、今は完全に低めの球を打つバッティングのやり方を忘れてる状態なんで、もう打てないかと思います」

 安達による長い昔話と低めの球を打てないという告白を聞かされたチームメイト達は、みんな同じことを考えていた。

(この安達の弱点、バレたらヤバくね?)

 しかし、鈴井監督だけは違った。

「なるほど。それならしょうがないな」

「ちょっと監督、しょうがないじゃないでしょ」

「弱点がバレた時のために、低めの球を打つ練習とかさせた方がいいですよ」

「いや、それはやめておいた方がいい。今の安達のバッティングフォームは完璧だ。それを下手に低めの球を打つ練習なんてさせたら、せっかくの完璧なフォームが崩れてしまう危険性がある」

「でもそれじゃあ、いつか弱点がバレた途端、安達は活躍できなくなりますよ」

「それはどうかな。黒山、水谷、白田、この後まだ投げられそうか?」

「はい」

「じゃあ今から安達と勝負してみろ。もちろん、低めの球はいくら投げてもいいぞ」