安達弾~打率2割の1番バッター~ 第13章 決勝戦 船町北VS龍谷千葉⑥

 期末試験当日。

「行ってきまーす」

「弾、試験頑張れよー」

 昨日、息子が初めて勉強しているところを見て少し機嫌のいい父親に見送られながら、安達は中学校へ登校した。

 1年3組。安達のクラスのホームルームが始まった。

「今日から明日まで2学期の期末試験が続きますが、ここで先生から試験に臨む際のワンポイントアドバスです。難しそうな問題がきた時は、さっさと捨てて次の問題にいきましょう。そこでつまずいて時間を消費し過ぎてしまうと、簡単な問題まで解く時間がなくなってしまいますからね」

 この言葉を聞いた安達は、パッと閃いた。

(これって、俺のバッティングにも使えるかも)

 安達は今まで、ストライクゾーンにきた球は全て打ちにいっていた。ストレートの球しか投げてこない旧型のピッチングマシーン相手ならそのやり方でも打つことができたが、多彩な変化球を投げてくる新型のピッチングマシーンに変わってからは、特に低めにきた球を打つことに苦戦していた。だからといって、低めばかり意識してしまうと、今度は今までそこそこ打てていた真ん中や高めにきた球が打てなくなってしまう。そしてまた普通に打ち始めると案の定低めの球に対応できない。そんな無限ループを、安達はずっと繰り返していた。

(難しそうな問題がきた時は捨てる。これをバッティングに置き換えると、難しそうな球がきた時は捨てる。つまり俺にとって打つのが難しい低めにきた球を捨てれば、もっと打てるようになるんじゃないか?)

 期末試験の最中も、安達の頭はさっき思いついたバッティングのことで頭がいっぱいだった。先生のアドバイスにしたがって、難しいそうな問題を飛ばしまくっていた安達は、毎回試験時間が半分以上余っていた。その時間を利用して、安達は試験用紙の裏側に自分が考えたバッティング理論が本当に正しいのかを計算していた。

(今までの俺のバッティング成績は、100球中20本程度。つまり打率2割しか打てていない。それを高さ別に分けると、 高めの球:33球中8本 真ん中の球:34球中9本 低めの球:33球中3本 だいたいこんな感じになる。今までの俺は、この低めの球も高めや真ん中にきた球と同じくらい打てるようにしようとばかり考えていた。もしも低めの球を克服できた場合、打撃成績はこうなる。 高めの球:33球中9本 真ん中の球:34球中8本 低めの球:33球中8本 9+8+8=25 つまり2割5分まで上がる。それに対して最初から低めの球を捨てた場合は、 高めの球:33球中x本 真ん中の球:y本 低めの球:33球中0本 このやり方で低めを克服できた場合の2割5分以上打とうと思ったら、x+y=25以上打たなきゃいけない。67球中25本。打率でいうと3割7分か8分くらいか。かなり高いハードルだけど、低めの球を克服するよりは簡単な気がしてきたぞ。あー早く試したい。さっさと試験終わらないかな)