安達弾~打率2割の1番バッター~ 第13章 決勝戦 船町北VS龍谷千葉④

 1回の表。2アウトながらランナー1塁。そして打席を迎えるは、4番バッターの安達。船町北のベンチや観客席は大盛り上がりだった。

「いけ―安達!」

「頼むぞ安達!」

「先制のツーランホームランだ!」

 しかし、キャッチャーの清村弟は全く動じていなかった。なぜなら、清村弟はすでに安達の弱点を見抜いていたからだ。

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「安達の弱点がわかったぞ!」
 
 決勝戦が始まる1週間前。安達を打ち取るため日夜研究に励んでいた清村弟は、ついに安達の弱点を見つけることに成功し、思わず声を出していた。

(だけど、この弱点をつくためにはコントロールが重要になってくる。果たしてうちの投手陣に、そこまでのコントロールができるのか。よし、試してみるか)

 清村弟は、山田、佐藤、村沢の投球練習時に、ある課題を出して投げてもらった。

『低めのストライクゾーンだけで3つのストライクを取れれば三振。ただし、3つストライクを取る前に1回でも低め以外のストライクゾーンに投げてしまとホームラン。ボール球を4つ出すとフォアボール。ちなみに、投げる球の球種や球速は問わない』

 この課題をそれぞれ5回やってもらった結果、このような成績になった。

 山田 三振1回 ホームラン3回 フォアボール1回

 佐藤 三振1回 ホームラン2回 フォアボール2回

 村沢 三振3回 ホームラン1回 フォアボール1回

(山田先輩と佐藤先輩じゃ厳しいそうだけど、村沢はセンスがありそうだな。村沢は決勝まで登板する予定もないし、もうちょっと練習してもらうか)

 清村弟は村沢に事情を説明すると、決勝戦の前日まで毎日、投球練習の最後にこの課題に挑戦してもらった。

 決勝戦6日前。

 村沢 三振3回 ホームラン1回 フォアボール1回

 決勝戦5日前。

 村沢 三振3回 ホームラン0回 フォアボール2回

 決勝戦4日前。

 村沢 三振4回 ホームラン1回 フォアボール0回

 決勝戦3日前。

 村沢 三振4回 ホームラン0回 フォアボール1回

 決勝戦2日前。

 村沢 三振5回 ホームラン0回 フォアボール0回

 決勝戦前日。

 村沢 三振5回 ホームラン0回 フォアボール0回

(よし、完璧だ。これで安達を抑えることができる)

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 安達に対する村沢の初球は、真ん中低めへのストレート。それも100キロをギリギリ超えるくらいの遅い遅いストレートだった。しかし、安達は全く打つ素振りすら見せないままその球を見逃した。

「ストライク!」

 続く2球目も、村沢は遅い遅いストレートを投げた。コースは外角よりの真ん中。わずかに低めに外れてボール球となった。

「ピッチャー何やってんだ!」

「真面目に投げろ!」

「ふざけてんのか!」

 観客席の一部からは、一見ふざけているかのようなその投球に対してヤジが飛んだ。

(ふざけてる? 俺達は大真面目だよ)

 清村弟は、そんなヤジには目もくれず、また低めのコースに遅い遅いストレートを要求した。

「ついに安達の弱点がバレたか」

 小声でそう呟いたのは、鈴井監督だった。

「だが、そう簡単に安達を攻略できるかな」