安達弾~打率2割の1番バッター~ 第13章 決勝戦 船町北VS龍谷千葉㊲
「桧川! いつでもいけるように準備しとけよ」
「はい!」
9回の表、龍谷千葉の守備が終わった直後、森崎監督が代打の切り札桧川にそう声をかけるのを耳にした清村兄は、こう思っていた。
(この回、ピッチャーの村沢に代打を出すのか)
しかし、この回の先頭である8番バッター片岡が打席に向かったあと、続く9番バッターの村沢がネクストバッターズサークルへと向かうのを、森崎監督は止めようとしなかった。
(この試合、本当なら今頃大量得点を奪ってうちが勝ちを決めている予定だった。ところが、想定外に黒山が凄すぎて、未だにうちの打線は得点どころかヒットすら打てていない。そんな中、まだうちに勝機が残されているのは、これまた想定外のピッチングでここまで無失点に抑えてくれている村沢のおかげだ。こうなったらこの試合、自分からマウンドを降りると言い出すまでは、村沢と心中しよう)
村沢に代打が出されないの見た清村兄の脳裏には、3年前の千石との対戦で最後の4打席目に代打を出せれしまったことが再びよぎっていた。
(もしかして俺、また代打を出されるのか?)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「パ―ン!!」
8回の表、清村弟がデッドボールを受けて倒れた時、1番驚いていたのが清村兄だった。
(あいつは厳しい内角攻めには慣れっこで、デッドボールになりそうな球がきても、うまく避けるか当たったとしても怪我をしやすい箇所だけは避けるようにいつも気を付けていた。そんなあいつが避けられなかったってことは……それだけ黒山の球を打つために、最後の最後までボールを引き付けて、命懸けで勝負をしていたはずだ。それに比べて俺ときたら……ヒットを打つことを諦めて、守備のミスに期待しながらのセーフティーバント狙い。なんてダサい兄貴なんだ。くそっ、このままじゃ終われない。次の打席こそは、バントなんかじゃなくて、正々堂々黒山と勝負してヒットを打ってやる)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(あいつの命懸けの打席を見て、せっかくやる気を取り戻したっていうのに、また4打席目で交代かよ)
「ストライク! バッターアウト!」
8番バッター片岡が、三振に抑えられた。
(嫌だ。絶対に嫌だ。絶対に交代したくない!)
清村兄はそう強く願いながら、ネスクトバッターズサークルへ向かおうと立ち上がった。しかしここで、森崎監督が清村兄に声をかける。
「総一……」
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません