安達弾~打率2割の1番バッター~ 第13章 決勝戦 船町北VS龍谷千葉㉙

 清村弟に代走が出され、試合が再開した後も、相変わらず清村弟は俺を試合から降ろすなとベンチで抗議し続けていた。

「お願いだキャプテン。せめて、あと1回でいいんだ。村沢が9回を投げ切るまででもいいから出させてくれよ」

「いい加減諦めろ。もう代走も出たし不可能だ。それより、早く左手の治療しろよ」

「くそっ、甲子園の出場がかかった決勝戦のもう1点もやれないこんな大事な局面で、キャプテンにマスクを譲るなんて。不安過ぎて治療どころじゃないぜ」

「おいてめえ、時代が昭和だったら今頃俺に半殺しにされてるくらいの暴言だぞそれ」

(まあ確かに、リード面や守備指示等、ほとんどの能力でこいつが俺を上回っていることは認めるが)

「畜生! なんで怪我なんてしちまったんだ。俺が正捕手を任された以上は、このチームを甲子園で絶対に優勝させてやるって誓ったのに」

「お前な、何でも1人で抱え込むなよ」

「えっ?」

「確かに、キャッチャーはチームの司令塔だ。チームが勝つ上での最重要ポジションと言っても過言ではない。けどな総次郎、同時にお前はまだ1年だ。このチームに入ってから、たったの3か月ちょっとのお前がチームの勝ち負けを1人で背負うなんて、いくら何でも重過ぎるだろ。お前は十分過ぎるくらいよくやった。黒山から1点も得点を奪えないという想定外の状況でもここまで同点で食らいついていけてるのは、お前がこのチームの正捕手だったからだよ。もしも俺が最初からマスクを被っていたら、今頃村沢は打ち込まれて交代してたかもな」

「キャプテン……」

「そして今のデッドボールだって、今まで1人のランナーすら出せていなかったうちにとっては、とても貴重な、それも先頭バッターの出塁だ。お前が怪我と引き換えに作ってくれた貴重なチャンス、決して無駄にはしない。きっと黒山だって、完全試合をこんな形で崩されて動揺しているはずだ。この回、きっと頼れる先輩達が点を奪ってくれるさ。だから安心して、怪我の治療でもしてるんだな」

 丁度その時、マウンドの方から球審のこんな声が聞こえてきた。

「ストライク! バッターアウト! チェンジ!」

「なあ総次郎、今、チェンジって聞こえたような気がしたんだけど、気のせいか?」

「気のせいじゃないですよ。キャプテン、早く準備した方が」

「あっ、いっけね。急がないと」

「キャプテン! 最後に1つだけ。村沢は前の回からコントロールが乱れてきていますが、まだ球威は落ちていません。リードの時は、そこを考慮してください」

「おう! じゃあ行ってくるぜ。お前はちゃんと治療しろよ」

(キャプテン……あの人にマスクを任せて、本当に大丈夫かな?)

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