安達弾~打率2割の1番バッター~ 第13章 決勝戦 船町北VS龍谷千葉㉘
「パ―ン!!」
打球音とは違う大きな音が響いた直後、左手を抑えながら清村弟はその場に倒れこんだ。
「デッドボール!」
ベンチから森崎監督と選手数人が飛び出し駆け寄ろうとしたが、清村弟はすぐに立ち上がると、ベンチの方を振り向いて大丈夫と手で合図したあと一塁へ歩き始めた。その合図で選手数人はベンチへと戻ったが、監督と1人の大柄な選手だけは構わず清村弟の元へ走っていった。
「監督、大丈夫ですって」
「いいから見せてみろ」
森崎監督はそう言って、半ば強引に清村弟の左腕を掴んでグローブを外すと、手の甲が赤紫色に腫れあがっていた。
「これじゃあ捕球もままならないだろ。交代だ」
「全然いけますって。見た目より大したことないですよ」
頑なに交代したがらない清村弟を突然、監督のそばにいた大柄な選手がお姫様抱っこで持ち上げた。
「ちょっと、何するんすかキャプテン!」
「監督、こいつベンチまで連れていきますね」
「ああ頼んだぞ。馬場、次の回からはお前がマスクを被れ」
「はい」
身長178センチ、体重は100キロ目前という清村弟の巨体を、軽々と持ち上げベンチまで運んでいく大柄な選手の正体は、馬場武。龍谷千葉高校野球部キャプテン。そして、清村弟が入学するまでは正捕手を務めていた。
デッドボールで選手を怪我させてしまうという最悪の形で完全試合の記録が途切れてしまった黒山に対して、キャッチャーの鶴田はメンタル面の心配をしていた。
(せっかくここまで良い感じできてたのに……あいつ大丈夫かな)
しかし、そんな鶴田の心配は杞憂だった。
「なあなあ、見たかよ今のカットボール。すんげー曲がったな。どうやら俺のピッチングは、まだまだ進化が止まらいようだぜ。あれ、どうした鶴田?」
(こいつ、どんだけ図太い性格してやがるんだ。だけど……)
「もしかして、先頭バッター塁に出したこと怒ってる?」
(こういう奴が、プロに行っても活躍できる一握りの天才なんだろうな)
「いや、なんでもねえよ。完全試合は終わっちまったけど、まだノーヒットノーランが残っている。なんとしても達成して、俺達が甲子園に出てやろうぜ」
「えっ? 完全試合?」
「黒山、お前……もしかして、気付いてなかったのか?」
「いやーとにかく目の前のバッターにだけ1人1人集中して投げてたからな。そうか、まだ打たれてないのか。よし、その話に乗った。ノーヒットノーランで龍谷ぶっ倒して、甲子園に出場だ!」
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