安達弾~打率2割の1番バッター~ 第13章 決勝戦 船町北VS龍谷千葉㉗

 黒山の完全試合が現実味を帯びていく中、当のチームメイト達はプレッシャーを感じていた。なぜなら、このまま無得点の状態が続いてしまえば延長戦に突入してしまい、完全試合はいつまで経っても成立しないからだ。

 8回表の船町北の攻撃は、そんなプレシャーからかちぐはぐだった。7番バッターの白田は、低めに外れたボール球に手を出してしまいピッチャーゴロ。8番バッターの水谷は、高めのボール球に手を出してしまい内野フライに倒れる。

(落ち着け落ち着け。ボール球に無理に手を出す必要はない。冷静にボールを見ていこう)

 前の2人の打席を見ながら、自分にそう言い聞かせて打席に上がった9番バッターの鶴田だったが、ボールをよく見すぎて見逃しの三振に終わってしまった。

 8回裏。先頭バッターの4番清村弟は、キャッチャーの防具を外して打席に上がる準備をしながら、頭をフル回転させていた。

(この回は相手の稚拙な攻撃に助けられたが、村沢のコントロールが乱れ始めている。球威がある分なんとか勝負できているが、もって次の回までだろう。となると、次に投げるピッチャーは山田先輩か。うーん……心配だな。春の大会でも5回を投げて3失点だし、点を取られる確率が高い)

 準備を終えた清村弟は、打席に向かって歩きながらまだ思考を続ける。

(一方相手の黒山は、まだまだ元気そうだ。しかも控えのピッチャーが2人もいる。水谷にしても白田にしても前回の対戦よりも進化している。前回と同様に点が取れるとは限らない。こうなると、延長戦は圧倒的にうちの方が不利になる。この試合、船町北に勝つためには……9回のうちに勝負を決めなければならない)

 黒山の投球練習が終わり、清村弟が打席に上がる。

(ヒットはいらない。ホームランで1点取って、次の回を0点に抑えてゲームセット。これしか勝機はない)

 清村弟への初球は、内角ギリギリへのカットボール。

「ブン!!」

「ストライク!」

(すごいスイング音だな。完全試合のペースが終盤まで続いた場合、普通はそれを防ぐためにコンパクトなスイングで当てにいきがち。だが、こいつのスイングときたら真逆で、ホームランしかいらないと物語っているかのような豪快なスイングだ。まだタイミングは合っていないようだが……一歩間違えると取り返しがつかなくなるな。よし黒山、全力で抑えに行くぞ。外角へストレートだ)

 2球目、黒山はこの日2度目のワインドアップを見せながら、全身をしならせて球を投じた。

「ブン!!」

「ストライク!」

 電光掲示板には、この日最速の159キロが表示される。

(よし、追い込んだ。ここは1球遊び球で外にカーブでも挟んでおくか)

 鶴田がサインを出すも、黒山は首を横に振った。

(無駄球を使いたくないってことか。延長戦になる可能性もあるしな。少し怖いが、今のノリに乗った黒山なら3球勝負でも抑えられそうだな)

 鶴田が次に出した内角へのカットボールのサインに、黒山は頷いた。

 3球目、黒山はまたワインドアップから、全身をしならせる。

(絶対に抑えてやる!)
 
 そう強く思いを込めながら、黒山は指先から球を放った。

(絶対に打ってやる!)

 そう強く思いを込めながら、清宮弟は黒山が放った球をしっかり最後まで凝視しながらフルスイングしようとした。

(えっ、こんな曲がる? やばい、このままじゃ……)

「パ―ン!!」