安達弾~打率2割の1番バッター~ 第13章 決勝戦 船町北VS龍谷千葉㉖
今日の試合、安達は仕事を全くしていなかった。厳密に言うと、四球で3回も出塁している訳なので仕事をしていない訳ではないのだが、少なくとも、安達自身の体感では全く仕事をしていなかった。
打席に立ち、ピッチャーが自動的に出す4つのボール球を見送った後、一塁ベースへ向かって散歩をする。そんな単調な作業を3回続けただけ。守備では、黒山がほとんど三振で抑えてしまうため、本来最もボールに触れる機会の多いはずのファーストを守っているにも拘わらず、安達にはまだ1度も守備の機会が訪れていなかった。
そんな訳で、清村兄がバントの構えを見せた瞬間、安達はやっと仕事ができるかもしれないという喜びを感じながら猛烈なダッシュをしていた。
「カーン!」
清村兄のバントした打球は、ダッシュしている安達の進行方向の真正面に向かって転がっていった。清村兄は俊足を飛ばすも、まだファーストまで半分近くも残っている段階で、すでに安達は打球をキャッチしていた。そして素早く体を反転させると、ファーストベースに入るため急いでダッシュする黒山が取りやすいような優しい送球を丁寧に行った。
「アウト!」
甲子園の地方大会決勝まで勝ち上がるような強豪チームにとって、今のファーストのバント処理はごくごく普通レベルのプレー。しかし、つい3か月ほど前までは全く守備経験のないど素人だった人間が行ったバント処理だと知っている船町北ナイン達と安達自身にとっては、ファインプレーといっても過言ではなかった。
「ナイス安達!」
「いいダッシュだったぞ!」
「送球も完璧だったな!」
チームメイトの先輩達からの温かい言葉に、安達はホット胸をなで下ろした。
(今日の試合、やっと初仕事が出来て本当に良かった)
一方で、アウトになってしまった清村兄は、ずっと顔をうつむかせたままとぼとぼとベンチへ戻っていった。
その後黒山は、後続のバッターを2者連続三振に抑えた。
7回裏を終えた時点で、奪三振19個、安打0、四死球0、失策0。球場にいる観客達のほとんどが、龍谷千葉打線相手に完全試合というとんでもない記録の誕生が現実味を帯びてきたことに、胸を躍らせていた。
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船町北 0000000
龍谷千葉 0000000
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