安達弾~打率2割の1番バッター~ 第13章 決勝戦 船町北VS龍谷千葉㉔
7回の裏。この回の先頭バッター清村兄は、3年前に対戦したある投手のことを思い出していた。
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それはシニアリーグの全国大会で、当時中学1年生ながらスタメンで試合に出場していた清村兄が初戦で当たったチームのエースピッチャーだった。
1打席目。初めて見るような速球とキレのある変化球に、清村兄は為す術もなく三振に抑えられた。
(これが全国レベルか。やばいな)
2打席目。1打席目と同様、清村兄はボールにバットを当てることすらできないまま三振に抑えられる。
(また抑えられた。でも、ちょっとずつ慣れてきたぞ)
そして3打席目。清村兄は3球目にきた甘いコースのストレートにバットを当てたものの、結果は内野ゴロに終わった。
(惜しい。でも、次こそは……)
しかし、清村兄に次はこなかった。4打席目を迎えたところで、清村兄は3年生の選手と交代させられてしまったからだ。
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(あの時は本当に悔しかった。特に最後の内野ゴロは、もうちょっと足が速ければセーフになっていた可能性もあったからな。確かあれ以来、走塁の練習を増やしたんだっけ。俺が今まで対戦してきたピッチャーの中でも、あいつは間違いなく歴代ナンバー1ピッチャーだった。その名は忘れもしない、千石聖人……今では高校ナンバー1ピッチャーとしての呼び声も高い超有名人だ。そして、今対戦している黒山聡太……認めよう。こいつは歴代ナンバー1の記録を塗り替えかねないようなすごいピッチャーだ)
黒山が、投球モーションに入る。
(だがそれはあくまでも、この打席でヒットを打てなかったらの話だけどな)
黒山が球を投じる。球種はストレート。
「ストライク!」
黒山のストレートは外角の高めにボール2個分外れていたものの、清村兄は思わずバットを振ってしまった。
(なんだこのストレートは……今までよりさらに速くなっている)
電光掲示板には、157キロの文字が刻まれていた。
(157キロか……体感では、160キロを優に超えている)
2球目、外角の外へと逃げていく、カットボール。
「ストライク!」
この球も、ボール1個分ほど外に外れていたものの、清村兄はスイングをしてしまっていた。
(予想よりも大きく曲がってきた。ストレートだけでなく、カットボールまで進化しているというのか)
初球のストレート、そして2球目のカットボールを見た時点で、清村兄は確信してしまった。黒山聡太は、自分史上歴代ナンバー1ピッチャーであることを。
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