安達弾~打率2割の1番バッター~ 第13章 決勝戦 船町北VS龍谷千葉⑳

 龍谷千葉高校の森崎監督には、3つの誤算があった。

 1つ目の誤算。点が取れない。

 龍谷千葉打線は、6回を終えた時点で得点は0。ヒットも0。出塁も0。これだけ0が続いてるのとは対照的に、三振数だけは17個も積み上げていた。

(うちの打線は全国一の強力打線だ。初めて対戦する情報の少ない投手相手でも、最初の数球、時間がかかっても2、3巡目には対応できる力を持ち合わせている。それが今日ときたらどうだ。相手の黒山は去年の夏、そして今年の春に2回も対戦している。しかもこの日の対戦に備えて、2か月前から同じ左投手の佐藤に頼んでチーム全体で対策までしてきた。そんな黒山相手に、6回まで点が取れないどころか出塁すらできないパーフェクトゲームを食らおうとしている。これは異常事態だ)

 2つ目の誤算。先発の村沢が7回の途中までを無失点に抑えていること。

(中学までは投手経験がほとんどなかった村沢。元々はバッターとしてスカウトした村沢。高校に入ってからも、公式戦での出場はたったの1度だけ。しかも投球回数はたったの1回1/3のみ。そんな村沢が、まさか決勝戦という大舞台でここまでの投球をするとは。これはうれしい誤算だ)

 そして3つ目の誤算は、球場中の応援が船町北高校一色になっていることだった。

(甲子園5年連続出場のうちと、甲子園経験0の船町北。判官びいきという言葉がある通り、ただでさえ絶対王者のうちは一般客からは応援されづらい。それに加えて船町北は、連日テレビや新聞の報道で散々船北旋風と持ち上げられていたからな。このような事態になる下地は整いつつあった。それに止めを刺したのが、安達に対しての徹底した敬遠策だ。得点圏にランナーがいる場面ならまだしも、1度目の対戦は1回表2アウトランナー1塁、2度目の対戦は4回表1アウトランナーなしと、普通なら勝負を避けないような場面で敬遠をしてきた。そして今も、7回表1アウトランナーなしの状態から安達を敬遠しようとしている。こうなったら完全に、うちのチームは悪役も同然。観客からは相当な罵詈雑言も飛んでくるはずだ。経験豊富なレギュラーメンバーならまだしも、果たして村沢にその状況を耐えられるメンタルがあるだろうか? 下手したら一気に崩れかねないぞ。山田にいつでもいけるように準備させておかないとな)

「ボール!」
 
 7回の表。1アウトランナーなし。4番バッター安達に対して最初の敬遠球が投げられた瞬間、球場中から今までにないほどの大量のヤジが飛んできた。

「卑怯者!」

「逃げんな!」

「それでも男か!」

「勝負しろや!」

「恥ずかしくないのか!」

 2球目、3球目とボールカウントが増えていくにつれて、ヤジの数も内容もエスカレートしていく。

「てめえらみたいな卑怯者、千葉から出ていけ!」

「逃げんなクズ野郎!」

「それでも男か! ちん〇んちょん切ったろか!」

「勝負しろ勝負しろ勝負しろ!」

「恥を知れ!」

「〇んじまえ!」

「ちん〇んついてんのかコラ!」

「ぶっ〇すぞ!」

 そして、4球目の敬遠球が投げられる。

「ボールフォア!」

 この瞬間、龍谷千葉高校は完全な悪役となった。