安達弾~打率2割の1番バッター~ 第13章 決勝戦 船町北VS龍谷千葉②
2016年7月21日。夏の甲子園千葉大会決勝戦当日。
船町北高校部員達が球場に到着し、中に入ろうとしたその時、先頭を歩いていたエース黒山の前に1人の男が現れた。
「よう黒山!」
「お前は……誰だっけ?」
「冗談はやめてくれ。角田だよ角田。角田聡。三街道の3番バッターでお前のライバルだろ!」
「あー思い出した」
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2016年。5月1日。春季大会2回戦。船町北は三街道相手に延長戦の末、2対1で勝利を収めた。
12345678910 計
船町北 0000001001 2
三街道 1000000000 1
この日の黒山は、10回を投げて無安打1失点というほぼ完ぺきな投球を見せていた。
「おい、黒山!」
試合終了の挨拶を終えた直後、黒山をそう呼び止めたのは角田だった。
「この借りは夏に必ず返す。次こそ絶対打ってやるからな」
ちなみにこの日の角田の成績は、3打数の無安打1打点。ちなみにこの1打点は、スクイズで奪ったものだった。
「あのさ、俺一応3年生だから敬語使えよ。お前2年生だろ」
「学年は違えど、俺達は対等なライバル関係だ。敬語など必要ない。じゃあな黒山」
(普通こういうセリフって、学年が上の方が言うもんだろ。こいつめちゃくちゃだなあ)
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(あのめちゃくちゃな奴か)
「俺たちはあと一歩のところで龍谷千葉に負けてしまった。そのせいであの時交わした夏に借りを返すという約束が果たせなくなってしまった。俺との再戦を熱望していた黒山には、本当にすまないことをしたと思っている。申し訳ない。この通りだ」
角田は頭を深々と下げた。
「おいおい、頭を上げろよ」
(ていうか、お前との再戦なんて別に熱望してねえぞ)
「俺達の対戦はもう高校野球では叶わない。お前が今年で卒業してしまうからな。だが、プロ野球の舞台でならこれから何度でも対戦ができる。だから黒山、この決勝戦でしっかりアピールして、なんとしてもドラフト指名を勝ち取ってくれ。じゃあな黒山。健闘を祈っているぞ」
そう言い残すと、角田は背を向けて立ち去って行った。
(ライバルからの熱い激励に、きっと黒山は今頃涙を流して感動してることだろう)
そんな想像をしながら立ち去る角田の後ろ姿を見て、黒山はただただポカーンとしていた。
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