安達弾~打率2割の1番バッター~ 第13章 決勝戦 船町北VS龍谷千葉⑱
6回の裏。この回の先頭、7番バッターの斎藤を空振り三振に抑える黒山に、東京ヤルグドスワローズのスカウトが熱い視線を送っていた。
(左で150を超える速球を投げる本格派ピッチャー。それだけでも魅力的なのに、それに加えてあんなカットボールまで投げられるとはな。すぐにプロでも通用するレベルだぞ。うちのドラフト1位候補は大阪西蔭の千石にほぼ決まっていたが、これは考え直さないといけないかもな)
続く8番バッター片岡をこれまた空振り三振に抑える黒山の様子を、北海道北ミートファイターズのスカウトが熱心に見つめていた。
(おいおいおい。とんでもねぇ怪物を見つけちまったな。元々は龍谷千葉の3年レギュラー鈴木や田中のバッティングをチェックする予定だったが、これじゃあ参考にならねえな。気持ちを切り替えて、未来の北ミートのエース候補、黒山君の投球をじっくりと見させてもらいますか)
2アウトランナーなし。ここで迎えるバッターは、前の打席ではもう少しでホームランかという惜しい当たりを見せ、龍谷千葉打線の中で唯一黒山から三振していないピッチャーの村沢だった。
(俺も黒山さんも、ここまで無失点で抑えてきている。ここだけ見れば同じだけど、内容は全然違う)
初球、右バッターの村沢の胸元を抉るカットボール。村沢はその鋭い変化に驚いて、思わず体をのけぞった。
「ストライク!」
(なんだよこの球。こんな変化球、打てる気がしねえ)
2球目、内角ぎりぎりへのストレート。
「ストライク!」
全く身動きが取れない村沢。電光掲示板には、155キロの文字が刻まれていた。
(前の打席の時よりも、明らかにスピードとキレが増している。これが黒山さんの、本当の実力……)
3球目、外から外角ギリギリへ入ってくるカットボール。村沢、またもや動けず。
「ストライク! バッターアウト! チェンジ!」
(ダメだ……投手としての力量が違い過ぎる。こんな化け物相手に、果たして俺は投げ勝てるのか……)
6回裏の守備が終わりベンチへと戻っていく黒山の様子を、千葉GuMマリーンズのスカウト野宮が複雑な表情で見つめていた。
(船町北の黒山君には、前から目をつけていた。貴重な左の本格派ピッチャー。しかも肩があまり消耗されていない。同じチームにレベルの高い白田君と水谷君という2人のピッチャーがいてくれたおかげだ。おまけに地元の千葉県出身ときたら、1位指名しない理由が見当たらない。だからこそ船町北には、できるだけ黒山君が目立たないまま他の球団のスカウトには見つからないようにひっそりと負けてほしかった。それがまさか決勝まで勝ち残り、しかも初回から6回まで無失点のノーヒット。おまけに奪三振が今の時点で17個。それも打撃破壊でお馴染みの、あの龍谷千葉打線相手にだ。これじゃあ嫌でも注目されてしまう。とてもじゃないがうちの単独1位指名とはいかなくなるだろう。はぁー、なかなか思い通りにはいかないな)
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船町北 000000
龍谷千葉 000000
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