安達弾~打率2割の1番バッター~ 第13章 決勝戦 船町北VS龍谷千葉⑭

 2アウトランナー1塁。この場面で打席に立ったのは、清村弟だった。

(素人ピッチャー相手に2者連続の凡打か。何かおかしい。一応初球は見ていくか)

 警戒を強める清村弟に対して、村沢は対照的な考えをしていた。

(どうせ俺みたいな素人ピッチャーがあれこれ考えたところで、清村弟を抑えられるはずがない。適当にど真ん中めがけて思いっきり投げていこう)

 そんな村沢の初球は、外角高めのストライクボール。

(スピードもキレもない、一見ただの棒球っぽいけど……何か動いた気がするな。もう1球だけ見るか)

 村沢の2球目は、内角高めのストライクボール。

(微妙だけど、ベース上にくる直前に横に曲がったような気がする。癖球か?)

 3球目。村沢の投げた球は、ど真ん中に向かっていた。

(あれこれ考えても仕方がない。多少芯が外れてもパワーで無理やりヒットにしてやる)

 清村弟がフルスイングしたバットが球に当たる直前、球の軌道が下向きに変わった。

「カキーン!!!」

 清村弟の打球は、上には飛んでいかずに三遊間を破る内野安打となった。

(今度は少し落ちたか? 危うく内野ゴロでアウトになるところだったな。あいつの癖球、全く動きが読めない。狙って投げてるのか、それとも天然か。多分後者だろうな。明らかに投げ方が素人っぽいし。だけどあの癖球をコントロールや球速をつけて投げられるようになれば、きっとすごい武器になるはずだ)

 この後、村沢は後続のバッターを打ち取り、この日投げた自チームの投手陣の中で唯一、自責点0の投手となった。しかし、この時の村沢はまだ、自分の投手としての才能に気付いていなかった。

(ビギナーズラックって奴か。たまたま0点に抑えられてラッキーだったな)

 試合終了後、清村弟は村沢に話しかけた。

「村沢君、突然なんだけど癖球って狙って投げてるの?」

「えっ、癖球? いや、俺、ピッチャーやるのとか初めてだし、ただ適当に投げただけだよ」

「やっぱりそうだったか。ねえ、お節介かもしれないけどさ、ピッチャーの練習してみたら? 才能あると思うよ」

「えー無理だよ無理無理。俺はバッティング以外興味ないよ。じゃあな」

 とは言ったものの、中学野球界の中でも有名な存在だった清村兄弟の弟にピッチャーの才能があると言われた村沢は、内心喜んでいた。

(今度試しに、投球練習やってみようかな)

 清村弟の助言をきっかけに、投球練習を本格的に始めた村沢。龍谷千葉高校に入学する頃には、無自覚に投げていたスライダー気味の癖球と落ちる癖球の2種類の投げ分けと、それに加えて通常の縦回転のストレートを投げられるまでに成長していた。
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(危ねー。9番でピッチャーで1年だし、てっきりバッティングの方は大したことないと油断していた)

 この日初めてまともに球を捉えられた黒山は、自分の投球を反省していた。

「黒山、悪い。もっと警戒してリードするべきだったな」

「いや、今のは俺が完全に油断していた。しかし、これで龍谷千葉打線は1番から9番まで全く気の抜けない打線だってことがわかった。改めて気合を入れ直して投げねーとな」

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