安達弾~打率2割の1番バッター~ 第13章 決勝戦 船町北VS龍谷千葉⑬

 村沢の打球は大きな放物線を描くも、その放物線の終わりはスタンドの3メートル手前まで走って追いついたレフト白田のグローブの中だった。

(くっそー惜しいな。出来れば油断してくれてる最初の打席でホームランを打ちたかったのに)

 村沢は悔しがりながらも、4回のマウンドに上がる準備のため急いでベンチへと戻っていった。

(最初に黒山の球をまともに捉えたのが、ピッチャーの村沢とはな。まっ、村沢は元々バッティングを評価してスカウトした選手だし、不思議ではないが。これで少しは、他のレギュラー陣にも火が付いてくれるといいんだがな)

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 昨年の7月某日。龍谷千葉高校の森崎監督は、清村兄弟が所属するシニアチームの試合を見にきていた。

 森崎監督のお目当てだった清村弟は、6回までの3打席でホームラン2本ツーベース1本という大活躍ぶり。そして試合の方も清村兄弟のチームが大差でリードしていた。

(やはり清村弟は絶対うちの高校にきてもらわないとな)

 そんな最中、清村兄弟の相手チームのあるバッターが特大のホームランを打った。

「カキーン!!!!」

(すごいパワーだな。あの3番バッター、確か1打席目ではセンター前ヒット、2打席目でもツーベースを打っていた。名前は……村沢和樹か。よし、こいつもスカウト候補に入れておくか)

 そして最終回。ある事故が起こった。

「カキーン!!!」

「バン!!」

 清村兄が打ったピッチャーライナーが、投手の頭を直撃した。幸い大きな怪我にはならなかったが、大事を取って選手交代することになった。しかし、すでに何度か投手交代をしていたこのチームに、控えの投手は残っていなかった。そこで白羽の矢が立ったのが、当時外野を守っていた村沢だった。

「村沢、投げられるか?」

(どうせ負け試合だし、まあいっか)

 村沢はそんな軽い気持ちで返事をした。

「投げられます」

 こうして、ノーアウトランナー1塁という場面から突然最後の1イニングを投げることになった村沢。

(何点取られることやら)

 そんなことを考えながら半ば投げやりに投球を始めた村沢だったが、相手バッターは2人続けて凡打に倒れた。

(ラッキー。素人の球だし、逆に打ちづらいのかな)

 その時の村沢はまだ気付いていなかった。自分が知らず知らずのうちに、癖球を投げていることを……。