安達弾~打率2割の1番バッター~ 第13章 決勝戦 船町北VS龍谷千葉⑫
清村弟のスイングは、ボールのはるか上を通過していった。
「ストライク! バッターアウト」
(なっ、なんだ今のストレートは?)
清村弟は電光掲示板を確認すると、138キロの文字が映し出されていた。
(全力のストレートがくるかと思いきや、まさかこんな遅い球がくるとは。完全に騙された)
「黒山、ナイスボール!」
鶴田はそう言って笑みを浮かべながら黒山に返球した。
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「なあ鶴田、黒山の配球のことなんだが……」
鈴井監督が鶴田にそう切り出したのは、春季大会が終わったあとの5月某日だった。
「ワインドアップから投げる時、ストレートの割合が多過ぎないか?」
「すみません。黒山のワインドアップから投げるストレートは強力なんで、ついつい頼り過ぎてました。もう少し変化球も混ぜるようにします」
「いや、ちょっと待て。しばらくはこのままでいこう」
「あのーどういうことですか? ていうか、しばらくっていつまでですか?」
「夏の甲子園の千葉大会で龍谷千葉と当たるまでだ」
「えっ?」
「あそこの高校は情報戦に長けてるからな。それを利用して、黒山がワインドアップで投げる時は絶対に全力のストレートがくるという嘘情報を掴ませとくんだ。これをうまく利用すれば、変化球じゃなくても、例えば遅いストレートなんかでも空振りが奪えるぞ」
「なるほど、面白そうですね」
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情報戦で一枚上手をいった鶴田、黒山バッテリーは、見事清村弟を三振に抑えた。
(カットボールどころか、ちゃんとしたストレートすら投げさせることができないまま三振を食らうとはな。こんな屈辱を味わったのは初めてだ。あいつら……覚えてろよ)
その後も黒山は好投を続ける。5番田中、6番西村を三振に抑えると、続く3回裏も7番斎藤、8番片岡を三振に抑える。これで黒山は、初回から8者連続三振を奪う形となった。そして今打席に立っているピッチャーの村沢を抑えれば、スタメン全員からの奪三振となる。
(今日の黒山は出来過ぎなくらいの出来だ。9者連続どころか、27連続三振もいけるんじゃないかと思えてくるな)
ストレートとカーブで村沢から2ストライクを奪った時点で、鶴田はそんな呑気なことを考えながらリードをしていた。3球目のストレートを、村沢に打たれるまでは……。
「カキーン!!!」
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船町北 000
龍谷千葉 00
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