安達弾~打率2割の1番バッター~ 第13章 決勝戦 船町北VS龍谷千葉⑩

 1回の裏。打席に立つは、1番バッター清村兄。

(佐藤先輩がマウンドの1メートル前から何度も投げてくれたおかげで、黒山対策は万全だ。ここは幸先よく1球目から狙ってみるか)

 そんな清村兄に対して、キャッチャーの鶴田は低めにミットを構える。

(清村兄は基本どんなコースの球でもヒットにしてしまう、恐ろしいバットコントロールの持ち主だ。だがそれでも、高めの甘いコースよりは低めの厳しいコースの方が打率は若干落ちる。黒山、しっかりコントロールしてくれよ)

 しかし、鶴田の願いも虚しく、黒山が投じた初球は高めに浮いてしまう。

(バカ、そんな甘いコースじゃ打たれ……)

 そう心の中で鶴田が呟く中、清村兄はスイングを始める。

(甘いコース、もらった!)

「ストライク!」

 清村兄のバットは、球にかすりもしないまま空を切った。電光掲示板には、151キロと表示されている。

(ペース配分を考えたコントロール重視のストレートだったにも関わらず、思った以上に伸びてきたな。その分球が浮いたのか。ギリギリキャッチできたけど逸らすところだった。今日の黒山、どうやら絶好調みたいだな)

(今の黒山の投げ方、全然本気を出していない。明らかに力を抜いて投げている。それでこのスピードとキレ。くっそー佐藤先輩を1メートルじゃなくて2メートル手前から投げさせるべきだったか)

 2球目、黒山が投げたストレートはまたもや高めに浮くも、清村兄は捉えきることができず、かろうじて球にかするファールボールとなった。

(これでも捉えられないか。ならば、さらにボール1個分高めを振るか)

(少しずつだが捉えられ始めている。ストレートは危険だ。カーブを挟んで様子を見よう)

 鶴田はカーブのサインを出すも、黒山は首を横に振る。

(カーブは嫌か。スライダーはコントロールミスが怖いし、早いけどカットボールを解禁するか)

 鶴田はカットボールのサインを出すも、黒山はまた首を横に振る。

(あくまでストレート勝負がしたいってことね。キャッチャーとしては投手のわがままを止めるべきところだけど、今日の黒山は絶好調だ。コントロール重視じゃなくて、力を込めたストレートなら三振にできるかもしれないな)

 鶴田は力を込めたストレートのサインを出すと、ようやく黒山は首を縦に振った。

(いつもならペース配分を考えて序盤ではあまり投げさせないけど、清村兄弟だけは別だ。こいつら兄弟をいかに抑えるかが、この試合の肝になってくる)

(今日は球が浮き気味だな。この状態で力を込めて投げるとなると、さらに高めに外れそうだ。ここは地面に叩きつけるようなイメージで、腕を振り切る)

 そんなことを考えながら投じた黒山の3球目は、外角低めの完璧なコースにズバッと決まった。球速は156キロ。清村兄はバットを振ることすらできないまま、ただ茫然と立ち尽くしていた。

「ストライク! バッタ―アウト!」