安達弾~打率2割の1番バッター~ 第13章 決勝戦 船町北VS龍谷千葉①

2020年11月26日

 学校に戻った船町北高校の部員達は、明日の決勝戦に向けてのミーティングをしていた。

「今回の甲子園大会でも、龍谷千葉は全試合山田と佐藤の継投で投げてきている。恐らく決勝でもこの2人が投げてくると思われるが、不気味なのは春の大会で1度だけ登板した村沢の存在だ。あれ以来公式戦での登板記録がないから、情報が全くない。もしも明日の試合でいきなり出てこられたら、正直かなり厄介だ。唯一の手がかりといえるのは、春の大会で1度だけ対戦した安達、黒山、福山、新垣、尾崎の情報だけなんだが、何か感じたことはあるか?」

「確か、130キロ代の普通のストレートしか投げてこなかった気がします」

「そうそう」

「でも、なんか打ちづらかったんだよな」

 福山、新垣、尾崎がそう答えた後、安達と黒山が別の情報を口にした。

「いや、普通のストレートの他にも少し変化する球が混じっていたと思います」

「俺もそんな感じがしたな。確信をもって言えるほどはっきり見えた訳じゃないけど」

「なるほど。変化してるかどうかはっきりわからないくらい微妙な変化の癖球を投げている可能性があるってことか。まあ一応頭の片隅には入れておいてくれ。とりあえず情報のある山田と佐藤の対策だけはしっかりやっておこう。そして万が一村沢がきた場合は……なんとかその場で対応していくしかないな」

 一方その頃、龍谷千葉高校でもミーティングが行われていた。

「今日の船町北の準決勝で黒山が登板していなかったことを考えると、明日は黒山が先発してくる可能性が高い。俺の読み通りだ。2か月前から定期的にやってきた黒山対策が実を結びそうだな。明日の試合に向けた最後の仕上げにレギュラーメンバーは2打席ずつやっておこう。佐藤、まだ投げられるな」

「はい! 大丈夫です」

「それと、この前深沢東高校から特別に貸してもらった練習試合での黒山の投球映像も最後にもう1度しっかりチェックしておくように。公式戦ではまだ投げていない黒山のカットボール、もしも事前の情報がなければいくらお前らでも打てなかったかもな。それくらいキレのある恐ろしい変化球だ。それと、一応今日の準決勝で投げていた水谷と白田の映像もチェックしておけ。水谷はカットボール、白田は曲がりの大きいスライダーと今までに見せていなかった変化球を投げている。黒山を打ち崩して降板させたあとは、この2人も同様に打ち崩してやれ。明日の決勝戦は、ただ勝つだけではダメだ。大量得点を奪う圧倒的な勝利で、絶対王者のうちの実力を見せつけてやれ!」

「はい!」

 その後、龍谷千葉のレギュラーメンバー達を集めた最後の黒山対策の練習が始まった。

 左でカットボール以外は持ち球が黒山と同じカーブとスライダーの佐藤が、マウンドから1メートル前の位置に立つと、全力で投球を始めた。

「カキーン!!!!」

「カキーン!!!!」

「カキーン!!!!」

 快音を響かせる龍谷千葉のレギュラーメンバー達。

(2か月前はなかなか打てなかったのが、今では見違えるようだ。黒山、待ってろよ。明日はうちの最強打線がお前を完膚なきまでに叩きのめしてやるからな)